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【書評キャンパス】大学生がススメる本
2018年4月6日

角田 光代著 『さがしもの』
日本女子大学 福士 遥

さがしもの
著 者:角田 光代
出版社:新潮社
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さがしもの(角田 光代)新潮社
さがしもの
角田 光代
新潮社
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 紙の本の良さとは何だろう。電子書籍、WEBメディア、SNSなどインターネット上で読めるものが増えたその一方で、紙の本を読む人は減ってしまった。便利さが加速する世の中で、いつか紙の本は超高級品となって気軽に読めなくなるかもしれない。改めて今、紙の本で読書する良さについて考えたい。

『さがしもの』は人と本にまつわる話が詰まった短編集だ。中でも「旅する本」という物語が、この一冊の中では印象深い。ある本を古書店に売った主人公が、旅先の外国で偶然にもその本と再会し読み返す。そして時間をあけて読み返したことで、物語の新しい一面を発見し、主人公は自分の変化や成長に気づく。1人の人物の過去と現在を本が結んでいるこの物語から、昔の自分を思い出しながら読書をする面白さに気づかされた。私も振り返ってみると、この『さがしもの』がきっかけとなって、昔の自分との変化に気が付く体験を得ていた。

『さがしもの』と私が出会ったのは高校生のときだった。放送部に所属しており、朗読コンクールに出場する機会があったのでこの本を選んだ。自分なりの工夫で物語の世界観を表現することが審査項目のひとつで、当時は何度も読みこんでいた。常に鞄に入れて持ち歩き、好きな表現には線引きを加えていた程だ。しかし先日、懐かしさから久しぶりにページをめくると、焼き付いていた物語の印象との違いに驚かされた。

私の物語の受け止め方が変化したのだろう。大学に進学して環境が変わり、またより多くの人と接する機会が増えて視野が広がったため、価値観が変化したからだ。『さがしもの』を読むまで気にすることはあまりなかったが、当時の書き込みを手掛かりに高校生の自分の感性を思い出して変化を実感することが出来た。

紙の本の良さとは、このように自分の読書の痕跡が残せることではないか。日々たくさんの情報が目の前を流れていく中で、変わることなくまたページをめくられる日を待ってくれる本という存在は、私にとって目印の様である。『さがしもの』を読んで改めてそのことに気づくことができた。本との向き合い方を教えてくれる、とても貴重な一冊だ。
この記事の中でご紹介した本
さがしもの/新潮社
さがしもの
著 者:角田 光代
出版社:新潮社
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