ストローブ=ユイレ シネマの絶対に向けて 書評|渋谷 哲也(森話社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2018年4月7日

演出家、ストローブ&ユイレ 
一四の論考を四部構成で収録

ストローブ=ユイレ シネマの絶対に向けて
著 者:渋谷 哲也
出版社:森話社
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渋谷哲也編『ストローブ=ユイレ シネマの絶対に向けて』は、ジャン=マリー・ストローブ&ダニエル・ユイレの映画に関する一四の論考を四部構成で収録している。第一部は三つの論文からなる。まず、渋谷哲也の「テクスト+映画」は、小説やオペラなど原作のあるものが多い二人の作品を脚色という観点から論じる。次に、サリー・シャフトウの「映画監督の仕事」は、リテラリストとして多言語間を横断する二人の映画の特質を、彼ら自身のテクストに依拠しつつ明らかにする。最後に、小澤京子の「ストローブ=ユイレ、量塊的映画」は、愚直さや量塊的という概念を鍵として用いつつ二人の映画の方法論を解明する。この三つの論文を通じて、ストローブ&ユイレの作品を考える際に重要となる美学的特徴が出揃うことになる。

第二部は四つの論考からなる。まず、千葉文夫の「テクストの声、大地のざわめき」は、主に『影たちの対話』と『ルーヴル美術館訪問』、『セザンヌ』を取り上げて、声と引用の美学を考察する。次に、中尾拓哉の「セザンヌに映り込む」は、『セザンヌ』を分析して、現実を模倣する諸層とその裂け目を問う。また、伊藤はに子の「カヴァロッティ通りの老狐」は、論者によるストローブへのインタビューを再現しながら、『アンナ・マグダレーナ・バッハの日記』を論じる。筒井武文の「語りの時間差による音楽の解放」もまた、『アンナ・マグダレーナ・バッハの日記』を取り上げて、映画内で演奏されるバッハの曲をひとつひとつ詳細に分析する。このように、第二部では代表作が個別的に論じられ、その絵画や音楽との関係が示される。

第三部は三つの論考からなる。まず、赤坂太輔の「「ストローブ=ユイレ派」は存在するか?」は、ストローブ&ユイレと直接の交流があり影響関係もあった監督たちを考察する。次に、竹峰義和の「イメージから抵抗へ」は、二人の映画とアドルノの美学の関係を論じて、パラタクシスという概念に両者の接点を見出す。最後に、中島裕昭の「『歴史の授業』における「語り手」の抹消とまなざしの活性化」は、『歴史の授業』とブレヒトの原作小説を比較しつつ、歴史を語る行為を問う。第三部の論考はそれぞれ分析の対象も方法も異なるが、映像と音、ドイツ、歴史といった主題を介して密かに響き合っている。

最後に、第四部は四つの論考からなる。まず、金子遊の「革命の民族誌」は、『早すぎる、遅すぎる』を民族誌映画という観点から大胆に分析する。次に、持田睦の「「共産主義のユートピア」論」は、『エンペドクレスの死』を生の喜びとしての「共産主義のユートピア」という観点から考察する。また、堀潤之の「ストローブ=ユイレとアンドレ・バザン」は、ストローブ&ユイレの映画をバザンの映画理論の先鋭的な実践として論じる。最後に、細川晋の「ストローブとユイエの映画」は二人の主要な映画の製作過程と内容を詳しく解説する。第四部では金子と持田、細川の論考が両監督の左翼的な政治性の強調という点で共通する。堀の論考はこの点を共有しないが、二人の映画の倫理的性格を強調する限りにおいて、他の三つの論考と結びつき得る。

ところで堀潤之によれば、バザン及びストローブ&ユイレの存在論的リアリズムは「ある特殊な演出」によって「映像が確かな存在感を備える」(三〇九頁)ことで成立するが、この指摘は極めて重要だ。つまり、存在論的リアリズムは現実らしく見える虚構であり、そこでは編集も含めた広い意味での演出が肝要となる。撮影された多数の「塊」(九二頁)も、「パラタクシス」(二二二頁)としてのそれらの並列も、それらの間の「裂け目」(一四五頁)も、全て演出を通して初めて成り立つものだ。筒井武文が、「映画的論理」(一九八頁)の行き渡ったストローブ&ユイレの編集を的確に指摘しているように、虚構の演出家としてストローブ&ユイレを捉えることが何より重要である。
この記事の中でご紹介した本
ストローブ=ユイレ シネマの絶対に向けて/森話社
ストローブ=ユイレ シネマの絶対に向けて
著 者:渋谷 哲也
出版社:森話社
以下のオンライン書店でご購入できます
2018年4月6日 新聞掲載(第3234号)
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