山上宗二記 書評|竹内 順一(淡交社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2018年4月7日

現代に蘇る『山上宗二記』 
原文に秘められた茶道精神に思いを馳せる

山上宗二記
著 者:竹内 順一
出版社:淡交社
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山上宗二記(竹内 順一)淡交社
山上宗二記
竹内 順一
淡交社
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本書は、茶道美術史、とりわけ茶書の読解、名物道具の理解に造詣の深い竹内順一氏による待望の現代語訳である。

ところで『山上宗二記やまのうえそうじき』とは何か? 評者も含め茶の湯と縁の薄い読者の皆さんに著者の言葉もかりて説明したい。

本書は、桃山時代、千利休の高弟山上宗二が、二十余年にわたり利休に質問し、学んだ密伝を整理し、「これこそ最高の茶道具である」とした「名物記」である。そこには茶壺から侘花入れまで最も厳しい基準で選別された二百十二点の名物があげられている。その最大の特色は、「良い道具とはこういうもの」と断言する茶道具が、なぜ「名物」になるのか、その理由や根拠を示したことにある。このような名物記は、後にも先にもない。原文の『山上宗二記』は、普通に読んだら無味乾燥なものだと著者はいう。しかしこの原文に秘められた、宗二が理想とする茶道精神に思いを馳せ、著者の骨太で含蓄のある文章によって血を通わせ、現代に蘇らせたのが本書である。

本書を通して、著者が、このことは基本として読者に知っておいてもらいたいと思われるところを箇条書きにしてみた。

(1)この名物リストは桃山時代に頂点を迎えた「佗び茶」の道具観である。

(2)道具を選別することを「目聞めきき」といい、目聞はその道具が茶の湯に適するか否かを「なり(形態)」「ころ(大きさ)」「様子(全体の印象)」という三つの観点から判断する。現代の美術品の鑑定のような真贋しんがんの判定をする「目利めきき」とは区別される。

(3)「名物」には、宝物としての価値を有する名物と、「侘びを立てる茶の湯者」にのみ価値のある「数寄道具」と呼ぶ名物があり、後者を一段上位の名物として峻別することを宗二は名物の理想とした。

(4)本能寺の変で、すでに失われた名物計三十五点を宗二は「今はない」とわざわざ名物リストに掲げている。これは名物の理想像を示すためには、欠かせない道具という信念があったからである。

本文をみていくと、次々に物語に出会う。例えば「大壺の次第」の章、「三ケ月」「松島」「松花」「捨子」の茶壺の銘の由来は? など。実際に数知れない道具を見てきた著者は、原文の短く凝縮された古語を、端的で、手触り感のある現代語に置き換えていく。読者は想像力をかきたてられずにはいられない。

特筆すべきは、溢れるばかりの圧倒的な「注」の多さである。内容豊かな竹内訳は、このような土台の上に立っている。おそらく、この「注」の中には、竹内氏が長年にわたって調べあげた新しい研究成果も潜んでいるのではないか。

本書を通じて言えることは、著者は『山上宗二記』を、常にその深部で捉えようと努めていることである。

山上宗二は秀吉の勘気をを蒙って惨殺された。四十六歳であった。

本書の最終章で著者は言う。「宗二は決して偏狭な主張を書き留めたのではない。『山上宗二記』のどこを開いても『良い道具とはこういうもの』という宗二の声が響いている」。
この記事の中でご紹介した本
山上宗二記/淡交社
山上宗二記
著 者:竹内 順一
出版社:淡交社
以下のオンライン書店でご購入できます
2018年4月6日 新聞掲載(第3234号)
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