「福島原発かながわ訴訟」団長・村田弘さんに聞く <棄民は許さない> 聞き手=佐藤嘉幸・田口卓臣|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2018年4月13日

「福島原発かながわ訴訟」団長・村田弘さんに聞く <棄民は許さない>
聞き手=佐藤嘉幸・田口卓臣

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福島第一原発事故は、未だまったく終わっていない。国や東京電力に対する訴訟も全国規模でおこされている。現在、強制避難を強いられている住民は今、何を思い暮らしているのか。「福島原発かながわ訴訟」の団長・村田弘さんにお話をうかがった。聞き手は『脱原発の哲学』の著者である佐藤嘉幸(筑波大学准教授)と田口卓臣(宇都宮大学准教授)の両氏にお願いした。このインタビューの完全版は、五月に配信予定の『『脱原発の哲学』は語る』(読書人)に収録される
第1回
ふるさと喪失

佐藤 
 「福島原発かながわ訴訟」は二〇一三年九月に、第一次集団提訴が行われました。その争点と、他の裁判と比べてどういった特徴があるのか、お聞かせいただけますか。
村田 弘氏
村田 
 原発事故に対する民事集団訴訟は、全国的には二〇一三年三月に始まっています。福島生業訴訟といわき市民訴訟が一番早く、三月一一日に提訴された。「福島原発かながわ訴訟」は半年遅れて、九月一一日に提訴しました。請求の基本となるのは三つの柱です。一つ目は責任追及。この事故を引き起こした国と東京電力の責任を明確化しろということです。二つ目に、起きた被害に対する正当な賠償の支払い。国が決めた避難地域と関係なく、心のふるさとと物理的なふるさとを含めて、ふるさと喪失に対する慰謝料を支払えということです。これに関しては、全員共通で一律二〇〇〇万円の支払いを求める。また避難にかかった実費賠償として一人月三五万円。最後に、不動産など個別の損害に関しては、それぞれ財物賠償させる。この三本柱です。提訴した時点での我々の思いは、棄民されるということを前提にしながら、棄民は絶対に許さないということです。それを合言葉にして、原告団声明文は書かれています。残念ながら、その後の流れを見ていると、棄民への行程をずっと歩んできている。そんな感じはしています。
佐藤 
 原告団声明はインターネットで読むことができます(福島原発かながわ訴訟原告団声明「暮らしを返せ ふるさとを返せ」、二〇一三年九月一一日、http://kanagawagenpatsu.bengodan.jp/category/01bengo/)。この「福島原発かながわ訴訟」は、第一次から第四次まで提訴されています。
村田 
 六一世帯一七四人、一年後までは併合審理で、固まって訴訟を展開しています。
佐藤 
 原告団には、区域内避難者と区域外避難者のどちらもが入っています。
村田 
 混在しています。私たちの原告団の場合、四分の一ぐらいが区域外の避難者です。いわき市、福島市、郡山市、須賀川、本宮市、会津坂下町の住民だった方々です。残りの四分の三が南相馬市や浪江町、富岡町、大熊町、楢葉町などの避難指示区域内の住民です。飯舘村出身の人も一人います。
田口 
 そのような混在状況は自然にできあがったのでしょうか。
村田 
 そうですね。というのは、訴訟の成り立ちについては、神奈川県の被害者救援弁護団の開いている相談会がきっかけになっています。それぞれが個別に相談に行き、ADR(原子力損害賠償紛争解決センター)へ申請する書類の作成を手伝ってもらったり、悩みを聞いてもらったりしていた。そうすると東京電力側の姿勢も次第にわかってきます。ADRの仕組みの中でできることの限界も明らかになり、これはやっぱり訴訟でやっていくしかないと決断したわけです。だから、避難元も家庭状況も様々で、そういう方たちが自然と集まってきたという感じです。
田口 
 ADRの担当者によっても、大分対応が違うようですね。別の地域では、単に東電の要求を伝える役割しか果たしていないケースもあると耳にします。神奈川の状況を伺っていると、しっかりと当事者に向き合おうとしていると感じます。それは、避難者の立場に立って考える弁護士さんたちが集まっていたからなのでしょうか。
村田 
 神奈川の場合は、後になってわかったのですが、今の弁護団の中心になっている中堅どころの弁護士さんが、元々原爆症訴訟の経験を持った方たちなんですね。基地の爆音訴訟を経験している弁護士さんもいます。そういう経験を持った方たちだからこそ、きちんとしたスタンスを持って対応してくださったんだと思います。
佐藤 
 福島原発かながわ訴訟原告団の特徴として、例えば各家の放射線量を測ったり、土壌汚染の数値を測ったり、きちんと被曝量を評価している、という点がありますね。
村田 
 どこの訴訟でも共通しているのは、国の責任を明確にするために、事前に原発事故が防げたのかどうかが一番大きな争点になっています。地震、津波と事故の関係を立証できるか、我々もそこを一番大きな争点にしています。それとは別に、「かながわ訴訟」の場合、もう一つ特徴があります。今言ったように、原爆症訴訟に関わってきた弁護士さんが中核となっていますから、放射線被害に対する知識が蓄積されているんですね。だから、そこをしっかり追及していく。事故が防げたか否かに関しては、もちろん国、東電の責任を明らかにしなければいけない。しかし、事故後最大の問題となるのは、放射能汚染です。汚染が今どういう実態となっているのか、それがふるさと喪失にどう関わってくるのか、そこをちゃんと立証しないと避難の合理性が立証されない。だから、放射能汚染に対する立証に大きく力を入れているわけです。そのために、これは集団訴訟で初めてのことだと思いますが、六一世帯全部の家の敷地内の空間線量と土壌線量を測って、証拠として提出しました。また、その証拠は我々が自主的に測ったデータですが、それだけ示しても決して相手は認めない。だから、国が公表しているデータを元にした数値も出し、そこで「生涯線量」という考え方を示して立証していく。ここが我々の弁護団のすごい着想だと思います。例えば人が五十年生きるとして、通常の年間被曝量が一ミリシーベルトだとすると、生涯で五〇ミリシーベルトが限界となる。これは原発を推進しているIAEAやICRPにも否定できない数値である。まずはそうしたテーゼを立てます。それと、国が二〇一三年ぐらいまで航空モニタリングで地域の線量を測ったデータがあります。二つを突き合わせるとどうなるか。国が測った原告六一世帯の地域の線量から計算すると、九九パーセントの世帯で「生涯線量」が五〇ミリシーベルトを越える。その鑑定書も提出しました。さらに、原爆症の認定基準作りに貢献された、医師の聞間元ききまはじめさんにも証人に立ってもらい、原爆症の認定でもここまでは認めている、などという証言をしていただきました。
田口 
 政府が公式に認めている原爆症の認定ラインに則ってみても、原告団の方々が住んでおられた地域の汚染量はそれを越えている。そういう数値を聞間先生の証言によって明確に示す。これは反論の余地をなくしていくためということでしょうか。
村田 
 向こうも反対尋問で足下をすくおうとしましたが、ほとんど空振りでした。しかも、聞間先生は臨床医としても長年原爆症に携わってこられた方ですから、証言としては非常に強かったと思います。放射線障害の立証に力を入れているのは、もう一つは京都訴訟です。京都訴訟の場合、原告団は母子避難者中心ですから、九八パーセントが区域外避難です。そうすると避難の合理性を立証しなければいけない。今避難してきたことの合理性、帰らないことの合理性を立証するには、線量と放射性物質による健康被害の因果関係を押さえておかないと、なかなか認めてもらえない。だから京都訴訟も、ここに力を入れています。京都では、崎山比早子先生が証人に立ってくれました。ここでも驚くべきことに、国側は、いわゆる御用学者と思われる「立派な」人たち十数人の連名で反論を出してきました。あれは権威一覧表みたいなものです。「素晴らしい」答弁書を出しています。典型的な推進側の論理がすべて書かれています。
田口 
 崎山さんも高木(仁三郎)学校のメンバーですね。市民の側に立つ、数少ない市民科学者の一人です。だから、あちこちで引っ張りだこになる。本当に大変だと思います。避難者側が証人をようやく一人見つけて証言してもらうと、向こう側は物量作戦で御用学者を出してくる。そういう状況を見ても、科学の「中立性」が成立しているのかどうか、素朴に疑問に思います。
村田 
 田口さんが今、「物量作戦で御用学者を出してくる」と言われたけれど、実は水俣病の時も、まったく同じ構図があったんですね。朝日新聞西部本社の記者、野上隆生さんが二〇一四年一二月、熊本学園のセミナーで報告した資料を見ると、それがよくわかります(「水俣病報道の責任――全国紙の役割から」、二〇一四年一二月一一日、http://www3.kumagaku.ac.jp/minamata/wp-content/uploads/2014/09/7221bd643bcee087c8a3a89168a47cfc.pdf)。一九五九年七月、熊本大学の研究班が、水俣病の原因が有機水銀であると突き止める。それをチッソがどうやって潰したか。東大を始めとして中央の学者を連れてきて、「原因は確定していない」と訴えた。我々が争っている裁判でも、まったく同じ構図があります。例えば、今焦点になっている津波の予見可能性ついて、二〇〇二年に国の地震調査研究推進本部が、三陸沖から房総沖にかけて大きな地震が起きる可能性を指摘している。それに対して対策を取るよう警告もしている。しかし、東電側はどうしたのか。土木学会という別の組織の見解を対立させて、対策を取らなかった。
佐藤 
 土木学会は電力会社の御用学会ですからね。時間稼ぎのために、その見解を利用したわけですね。
村田 
 裁判の中でも、何ら撤回することなく土木学会の説を主張し続けている。彼らの説は、先日の前橋や福島地裁の判決でも明確に否定されているんですよ。それにもかかわらず、まだ国と東電は反論として持ち出してきている。
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2018年4月13日 新聞掲載(第3235号)
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