嵯峨直樹『神の翼』(2008) 赤んぼの頃から俺のおしっこはおむつを宣伝するために青い|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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現代短歌むしめがね
2018年4月17日

赤んぼの頃から俺のおしっこはおむつを宣伝するために青い
嵯峨直樹『神の翼』(2008)

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おむつのCMでは、おしっこが青い液体として表現される。もちろん現実のおしっこは黄色い。お茶の間のテレビに流される映像では、おしっこの生々しさを軽減するためにわざと現実には存在しない色で表現しているのだ。だからいってみればこの表現は嘘であり、欺瞞である。

このような表現は生理用品のCMにもみられる。現実の血液は赤いのだが、CMでは青く表現している。おむつのCMの嘘にはいつか気付いたとしても、生理用品を使うことがない男性の場合は、生理用品のCMの嘘には気付かずに人生を送ってしまうことが全くありえないとは言えないのである。

現実のおしっこを隠蔽して生まれた世界が逆に現実と化してしまった奇妙な世界が、この歌の中では生まれてしまっている。その文体はきわめてアイロニカルだ。収録歌集の解説で穂村弘が指摘しているように、身体や本能のレベルまでコントロールされた清潔な世界への批判的意識が作者の作家性の根本をなしている。フーコー的な「生―政治」への批判ともいえるだろう。「コントロールされた清潔な世界」を維持するためのモチベーションが、「宣伝」という資本主義的なものであることも、アイロニーを強めている。

おむつのCMにあふれている気持ち悪さを表現するのには、「おしっこ」という言葉でなくてはいけなかった。「尿」や「ゆばり(尿の古語)」ではだめだっただろう。これと同種の気持ち悪さは、この世の中にまだまだあるはずだ。
2018年4月13日 新聞掲載(第3235号)
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