上村一夫 美女解体新書 書評|松本 品子(国書刊行会)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
読書人よ、集まれ!
▶メールマガジン登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは

読書人紙面掲載 書評
2018年4月14日

上村一夫画、松本品子編『上村一夫 美女解体新書』
大阪樟蔭女子大学 柘植 未宇

上村一夫 美女解体新書
著 者:松本 品子
出版社:国書刊行会
このエントリーをはてなブックマークに追加
ごく普通の大学生である私が上村一夫を知っていたのは、もともと昭和の文化に興味があって作詞家阿久悠が手掛けた歌謡曲を聴くのが好きだったからだ。阿久の新書(『愛すべき名歌たち』)の中で、上村の名前はある広告会社で出会い、共に時代を駆け抜けた同志としてたびたび登場する。

上村の作品としては、ドラマ版『同棲時代』を観たことがある。沢田研二と梶芽衣子が演じる若い男女、次郎と今日子を演じ、希望と互いへの愛に満ち溢れるキラキラした姿を覚えている。そんなイメージを持って画集を開いたからおびただしい量の血を流す今日子とそれを止める次郎の絵に驚いた。上村の描く美女たちは経済的、立場的、様々な面での弱者が多い。にもかかわらず、その眼差しからは破滅を導くような強い魅力がある。彼女たちは涙を、血を流しながら、情熱的に、ある時には添えられた詩に託して抒情的に怒りや悲しみなどに想いをめぐらす。そして、過去や未来などどうでもよいとばかりに、いまこの瞬間のためだけに命を燃やす。母の敵を討つため大勢の男どもを前に挑む『修羅雪姫』の鹿島雪、次郎の愛だけを頼りに二人だけの半端な暮らしを続けた『同棲時代』の飛鳥今日子。左翼教師との駆け落ちから波乱の生涯を辿る『しなの川』の高野雪絵。美女はみな黒髪を乱し、白肌をあらわにして刹那的に、愛欲に生きるその姿はとても悩ましい。死を司るタナトスと生(性)を司るエロスは両極端に位置するというが、この世界の美女たちにとって生きることは破滅へと導かれていくのだから、死と生が一体化した状態なのだ。

人はみなあらゆる感情を持ち合わせている。その感情が昂ぶり、極限まで行きつけばこの世のものとは格別な何かが入り込み独特の美しさを宿す。この画集には、そんなテーマを用いて上村が抱く一種の女性像が詰めこまれているのではないだろうか。ただ、それは単なる「女はこうあってほしい」という願望ではない。過去のインタビューから奥様がクリーニング屋のお兄さんと会話するだけでやきもちを焼いたり、取材当時まだ幼かった娘さんには素直な心を持った女性いてほしいと願いを込めていたりと奥様と娘さんを大事にされている様子が分かる。あくまでも「女」という題材を上村流にフルに活かしきった結果があの妖艶な美女たちなのである。また、この美女たちと相反して関係を持つ男たちはみな頼りないのも見どころだ。良く言えば「優しい」、悪く言えば「ヘタレ」。相手のまっすぐな気持ちを受け止められず、不器用な姿がどこか可愛らしく見えてくる。女が持つ芯の強さと男が持つ気弱さを同時に描き出しているポイントも捨て置けない。当時の劇画界で初めて女に焦点を当てた作家ということもあって、他の劇画作家と並べるにはどこか違ったポジションに上村一夫は位置するのだ。「劇画家」や「画家」というより「漫画家」「絵師」というのが私自身腑に落ちるのはそのせいなのかもしれない。没後三十年以上経過したが、上村がもし生きていたら現代の女をどう描くのだろう。側に男を従わせるブルゾンちえみのようなキャリアウーマンなんか諷刺したら、私は笑ってしまうかもしれない。
この記事の中でご紹介した本
上村一夫 美女解体新書/国書刊行会
上村一夫 美女解体新書
著 者:松本 品子
出版社:国書刊行会
以下のオンライン書店でご購入できます
2018年4月13日 新聞掲載(第3235号)
このエントリーをはてなブックマークに追加
松本 品子 氏の関連記事
読書人紙面掲載 書評のその他の記事
読書人紙面掲載 書評をもっと見る >
文化・サブカル > 文化論関連記事
文化論の関連記事をもっと見る >