ラディカル・ルーマン ――必然性の哲学から偶有性の理論へ 書評|ハンス=ジョージ・メラー(新曜社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2018年4月14日

入門書として最適 
ルーマン理論の哲学的エッセンスに光を当てる

ラディカル・ルーマン ――必然性の哲学から偶有性の理論へ
著 者:ハンス=ジョージ・メラー
出版社:新曜社
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ニクラス・ルーマンほど数多くの入門書が書かれている社会学者は珍しい。日本語で読めるものだけでもクニールとナセヒの『ルーマン』(新泉社)を筆頭に、長岡克行氏の大著『ルーマン』(勁草書房)やボルフの『ニクラス・ルーマン入門』(新泉社)、さらにはバラルディらの手による『ニクラス・ルーマン社会システム理論用語集』(国文社)などがあり、これらにルーマンの社会学理論に関する専門書を加えれば、その数は優に二〇冊を越える。

かくも多くの関連文献が出版される理由は、何よりもまずルーマンが用いた専門用語の特異性と彼が取り上げた対象の多様性にある。彼は、一般システム理論や生物学や数学や言語学などからオートポイエーシスや再参入、バイナリー・コードといった多種多様な概念を摂取し、独自の理論体系を作り上げるにとどまらず、それを法や政治や宗教、科学やリスクといったさまざまな社会現象に応用し、壮大な現代社会理論を構築した。もちろんそうしたルーマンの思考そのものが多くの人々を魅了するものであったことが、ルーマンをめぐる思索を生み出し続けている最大の理由であることは言うまでもない。

それゆえルーマン理論の入門書は、著者の専門性だけでなく、著者がルーマンのどこに魅力を感じているかによって、それぞれに極めて個性的なものになる。この観点から本書を特徴づけるならば、それはルーマン理論の哲学的なエッセンスに光を当てたものであると言うことができる。かつてハーバーマスがいささかの皮肉を込めて評したように、社会学者であるという自己評価にもかかわらず、ルーマンは「真の哲学者」であった。その意味で、狭義の社会学にとどまらないルーマン思想の入門書となっている本書は、もっぱら社会学の業績としてのみルーマンを受容してきた者にとっては、新鮮なルーマン理解を提供することになるだろう。他方で「必然性の哲学から偶有性の理論へ」という標語のもと、ヘーゲルの『精神現象学』と適宜対比させながらルーマンのシステム理論を特徴づける本書の構成は、社会学よりもむしろドイツ哲学に馴染んできた者にとっては、ルーマンの思想をより身近に感じさせる仕掛けになっている。適宜、補足される訳者解説も親切である。

さて著者がルーマン思想の「ラディカルさ」として最も強調するのは、ルーマンの「反ヒューマニズム」である。著者によれば、宇宙や自然が人間の意思とは無関係に物理学的な法則に従っているのと同様に、社会は社会の論理に従って作動するだけであり、人間がそれを制御することはできず、ましてや自分たちの理想通りにそれを設計することなどできない。この端的な事実を徹底的に突き詰めたのがルーマン理論であり、彼が「社会」学者であるのは、物理学者が物理現象を観察するように、社会現象の観察に徹しているからである。

この点、「見えざる手」や法の支配といった思想との間にある人間の意思を超えたメカニズムへの志向という共通点に留意すれば、ルーマン理論の「ラディカルさ」を喧伝するよりも、むしろ自由主義の系譜に位置づけた上で、その特性を慎重に検証した方が生産的であるように評者には思われるが、いずれにせよ簡潔かつ的確な本書の紹介が入門書として非常に高い水準にあることに変わりはない。特にルーマンのシステム理論がデカルト的な心身二元論から脱却し、精神・身体・コミュニケーションからなる三元論、さらにはより高度な多元論へと展開しうる可能性を有するという著者の展望は、非常に重要である。

総じて平易な文体でルーマン「哲学」の核心を記述し、さらにその可能性までも示す本書は、これからルーマンを学び始める者にとっても、また新たなルーマン像を垣間見たい者にとっても最適な一冊である。なお本書を通じてルーマンとともにより深い思索を楽しみたいと感じた向きには、多田光宏氏の『社会的世界の時間的構成』(ハーベスト社)を推奨したい。本書の著者が魅了される多元論の展開の一つの方向性が描かれている。(吉澤夏子訳)
この記事の中でご紹介した本
ラディカル・ルーマン ――必然性の哲学から偶有性の理論へ/新曜社
ラディカル・ルーマン ――必然性の哲学から偶有性の理論へ
著 者:ハンス=ジョージ・メラー
出版社:新曜社
以下のオンライン書店でご購入できます
2018年4月13日 新聞掲載(第3235号)
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