島生まれ|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
読書人よ、集まれ!
▶メールマガジン登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは

American Picture Book Review
2018年4月24日

島生まれ

このエントリーをはてなブックマークに追加
この絵本は親子で楽しく読み、子供が残酷な歴史を理解できる年齢に達した時に、ふたたび読むべき貴重な一作だ。

ローラはニューヨークに住む小学生。クラスメートは全員が世界各国からの移民。今日の宿題は「あなたの最初の国(出身国)の絵を描く」こと。皆、あれを描く、これを描くと大興奮。でもローラは悲しい。ドミニカ共和国から赤ちゃんの時にやってきたから、島のことは全然覚えていないのだ。

ローラは家族や街の人たちに島の思い出を訪ねて歩いた。誰もが嬉しそうに「空気よりたくさんある音楽!」「虹のような色彩!」「ココナッツやマンゴ!」と、カラフルなカリブ海の島の様子を教えてくれた。ローラのアブエラ(スペイン語でおばあちゃん)は、大好きだったビーチの話をしてくれた。島のビーチを知らないローラがまた悲しくなったら、アブエラは「島はあなたの中にあるのよ」とささやいた。

ふと、ローラは思う。それほど素晴らしい島なら、なぜみんな島を出たの? アパートの年老いた管理人さんが、躊躇しながらも「モンスター」のことを語ってくれた。ローラが生まれるずっと前、島には恐ろしいモンスターがいた。たった一言を発するだけでひとつの町を滅ぼすこともあった。でも、と管理人さんは言う。ローラのような勇敢な若い女性たちが立ち上がり、モンスターを退治したのだと。

ローラは夢中になって音楽、色彩、果物、そしてモンスター、モンスターと闘う人々の絵を描いた。一枚の絵には収まり切らず、本になった。島を覚えていなくとも、もう悲しくない。だって「島は私」だから。

モンスターとはドミニカ共和国に実在した独裁者、ラファエル・トルヒーヨだ。30年間にわたって圧政を敷き、多くの島民を虐殺した。勇敢な若い女性たちとは反政府活動をおこない、トルヒーヨに暗殺されたミラバル三姉妹を指す。1961年にトルヒーヨ自身が暗殺され、以後、島からアメリカ、とくにニューヨークへの移民が爆発的に増えたのだった。

管理人は幼いローラに虐殺や暗殺の話はせず、モンスターとヒーローの話として語り聞かせた。ローラの絵を見たアブエラは息を飲み、ローラを抱きしめた。ローラはやがて島の歴史を学ぶだろう。その時、ローラは今にもまして「島は私」と、強く思うに違いない。(どうもと・かおる=NY在住ライター)
2018年4月20日 新聞掲載(第3236号)
このエントリーをはてなブックマークに追加
堂本 かおる 氏の関連記事
American Picture Book Reviewのその他の記事
American Picture Book Reviewをもっと見る >
文学 > 外国文学 > アメリカ文学関連記事
アメリカ文学の関連記事をもっと見る >