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あの人に会いたい
2016年9月30日

写真家・吉村和敏さん (下)

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吉村 和敏さん
写真集がなかなか売れる時代ではない。それでも吉村和敏さんは、共著も含めて四〇冊近くの写真集を作り続けてきた。二〇〇〇年に出版した『プリンス・エドワード島』を筆頭に『光ふる郷』(幻冬舎)、『ローレンシャンの秋』(アップフロントブックス)など、カナダの自然やそこに暮らす人を丁寧に写し撮った作品もあるが、谷川俊太郎氏の詩と吉村さんの写真のコラボレーション『あさ/朝』、『ゆう/夕』(共にアリス館)は累計発行部数三〇万部という異例の数字をたたき出す。この企画を実現するにあたって、吉村さんはアリス館の編集担当者と共に、直筆で手紙を書いて、谷川氏の了解を得たという。

吉村さんにアシスタントはいない。企画実現の依頼やスケジュール管理、ありとあらゆることを一人でこなしてきた。一人でずっと歩き続けている吉村さんの背中を、折に触れ見続けてきた。だからこそ、『私のカントリー』と重なる吉村さんの写真集を作ることは、私の長年の夢でもあった。それが叶ったのが、二〇〇六年に刊行した『林檎の里の物語』。そして本書が「日本写真協会賞新人賞」を受賞したというのも、本当に嬉しいニュースだった。

今、吉村さんはテーマを決めて写真を撮りため、それを必ず写真集にして刊行するというスタイルを守り続けている。「そんなことができる写真家はそうはいないでしょう?」と聞くと「確かにそうかもしれない。出版社から依頼されて、ある程度売れるという確信があるテーマ、売れなくても自分がどうしてもまとめたいテーマ、それから広告関係の仕事。この辺のバランスを取りながら仕事をしていく術を、手探りしながら身に着けてきたんだと思います」

「自費出版に近い形で本を作ることも、もちろんありますよ。自分で買取りをして個展で売るという方法もとっています。テーマがあってそれを必ず本にする。それは僕にとっての卒業証書なんです。それがないと次に進めないから」

吉村さんは写真家でありながら「本を作る人」なのだ。今回の取材を通して、新たに発見したことだった。「紙の本づくりが一番楽しい。作っている過程が楽しい。出来上がったときが楽しい。それが僕の生きがいになっている。あと二〇年、年間五冊作るとして、一〇〇冊が目標です」 そう言いきる吉村さんを、この人は本当に一〇〇冊つくってしまうのだろうな、とまじまじと見てしまった。

『林檎の里の物語』
本が売れない時代に、どうしたら存在を知ってもらえるか、出版に携わる人たちが抱えている大きな悩みでもあるが、吉村さんの仕事の仕方を見ていると、ここで採算をとる、この部分は赤字覚悟、ここはトントンならいい。そんな方向性をひとりでいくつも想定し、一つ一つの仕事に全力でぶつかっている。経営基盤がしっかり確立している、数少ないアーティストだと舌を巻いた。

「江原さん、コーヒーテーブルBOOKって知ってますか? 東京で開催した写真展を全国に巡回させていくんです。場所は小さなギャラリーだったり、カフェだったり。ここに僕の本を並べて、気に入ってもらったら買っていただく。こんな地道な方法もバカにならないんですよ」

そしてもう一つ、これからの夢を尋ねた。「小さくてもいいから、地方に写真美術館を作りたいんです。僕の写真を見てもらい、今までの写真集を並べて販売する。信州か山梨県の清里あたりでできないかな、と今、物件を模索中なんですよ」

清里に編集室を作りたいと思っていた時期があったが、もしかしたらそう遠くない将来、なにか一緒にできることがあるのではないかと、ワクワクしながら帰途に着いた。
2016年9月30日 新聞掲載(第3158号)
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