連 載 ヴィスコンティ ジャン・ドゥーシェ氏に聞く55|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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ジャン・ドゥーシェ氏に聞く「映画/映画作家/映画批評」
2018年5月15日

連 載 ヴィスコンティ ジャン・ドゥーシェ氏に聞く55

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『乙女と死』(1972年)の撮影現場
HK 
 ヴィスコンティには多くの引用があると思いますが、そこで表現される文化は直接的ではありませんよね。ゴダールやストローブのように出典元を明らかにすることはありません。
JD 
 ヴィスコンティにおいて、というよりも大貴族の文化について言えることですが、わざわざどの芸術作品を取り扱っているのか、明らかにする必要はありません。ヴィスコンティほどの貴族にとっては、文化的頂点にいることが当たり前のことだからです。だから芸術に対する分析のようなものは必要ありません。唯一の問題は、壊れていく文化です。『山猫』の冒頭では、公爵の住む世界は完全な調和に包まれています。そして、その世界が内部から完全に破壊されて行きます。私たちは、死(=崩壊)を見ることになります。いずれにせよ、ヴィスコンティの全ての映画は、死の方へと向かって行きます。映画は美によって始まり、最終的にはその美が死へと誘う。死へと向かわないヴィスコンティの映画はありません。
HK 
 メメントモリのような考え方ですか。
JD 
 メメントモリは、様々な解釈がありますが、いずれにせよ、世界の終わりについての考え方です。ヴィスコンティにおける死は、いま目の前にある世界はすでに終わってしまった世界である、ということを理解していた貴族の知識人による考え方です。世界は終わった。そのことが重要だったのです。
HK 
 新しい世界が、以前の世界に置きかわる。それが『家族の肖像』の主題でした。
JD 
 それが重要な問題です。そして、その新しい世界は資本によって支配された世界であり、それまでには存在し得なかった世界です。
HK 
 要するに、ヴィスコンティ映画には、常に過去の世界と新しい世界と二つが存在しているということですか。
JD 
 はい。過去を破壊しつつある現在が存在しています。ヴィスコンティの映画には欠くことのできない動きがあります。それは先ほど話に上がったように、進んでいく人物を背中から追いかけていく動きです。トラヴェリングのようにして、カメラは人物の後をついて行きます。私たちが死を見ることになるのは、そのような動きの中においてです。『山猫』の最後の背中は、非常にわかりやすいはずです。公爵が画面奥へと去っていく。私たちはカメラという眼を通じて、彼を後ろから追いかける。公爵がその場では死ぬことはありません。しかし、彼の世界が終わってしまったことは明白です。結局のところ、ヴィスコンティの映画はそのような動きの中で作られています。
HK 
 昨年王家衛がリュミエール賞を受賞した際に、数作品見返す機会がありました。過去と現在の二重性という話が出てきましたが、王家衛の映画にもそのようなところがあるのではないでしょうか。
JD 
 王家衛は、すべての作品を見たわけではないので、お答えできません。
HK 
 いずれにせよ、王家衛の映画を見ていて印象的だったのは、「現在」の存在です。つまり、その時代のその場所にしか存在し得なかった瞬間が見事に切り取られていました。そして、その「現在」の中には、時間的もしくは地理的に、何か別のものが存在しています。
JD 
 「現在」を撮影することのできた映画作家は、映画史の中でもわずかしかいません。ルノワール、小津のような限られた作家たちだけです。溝口に関しては、曖昧なところです。溝口にも現在の側面はありましたが、それ以上に別のことが問題となっています。一方で小津は、「現在」の中にいました。しかしながら、その現在とは過去でもあります。つまり、伝統による現在です。伝統とは、日本の家庭に他なりません。今日では存在の薄くなっているものです。
HK 
 小津は、その伝統を現在の中で見せたということですか。
JD 
 そうです。常に現在の中で過去を見せています。現在における、昔からの伝統が問題でした。その時にあった家族文化が見事なまでに、見せられます。父がいて娘がいる、そして周囲の人々も関わってくる、それが家族でした。 <次号へつづく>
〔聞き手=久保宏樹/写真提供=シネマテーク・ブルゴーニュ〕
2018年5月11日 新聞掲載(第3238号)
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