みどりのゆび 書評|モーリス・ドリュオン(岩波書店)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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【書評キャンパス】大学生がススメる本
2018年5月12日

モーリス・ドリュオン作 『みどりのゆび』 
大阪樟蔭女子大学 田畑 果奈実

みどりのゆび
著 者:モーリス・ドリュオン
出版社:岩波書店
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本作の主人公チトは、植物の種を成長させる力、「みどりのゆび」を持っていることに気づく。そして刑務所や病院、戦争の道具などに植物を生やすことで周囲に変化をもたらしていくというのがあらすじだ。

チトは、世の中の当たり前を『当たり前』として受け入れ生活している人々と対照的に、それに対して疑問を持って考えをめぐらせていくのだ。

そもそもチトはお金持ちの両親のもとで育ち、何不自由ない生活を送っていた。しかし、その背景には戦争がある。チトが住む町ミルポワルは、たくさんの注文を受けて鉄砲をつくっていた。特にお父さんはその鉄砲の工場を営む商人で、チトに「うちの商売はよい商売だよ。雨がさは、おてんきがよいとだれも買わない(中略)しかし鉄砲には、そんなしんぱいはいらない。おてんきにかかわりなしに売れるからね。」と言う。

さて、チトはひょんなことから学校教育ではなく現地を直接見る学習方法をうけるようになる。その先生の一人が、かみなりおじさんという男である。まさに世の『当たり前』を信じる人であるが、その教えはチトの自我が芽生えるきっかけとなる。

たとえば、かみなりおじさんが規律と、規律をみだした人が入る場所である刑務所についてチトに説明する場面がある。従来では「そうなんだ」と納得し大人の言う通りにする子が大半で、それが『いい子』として評価されている。しかしチトは、ぞんざいに扱われる囚人の姿を見て「あそこにとじこめられたら、たとえわるいことはなにもしなくても、しまいにはきっととてもいじわるな人間になってしまう」と考える。かみなりおじさんや周囲の大人は、『当たり前』にひっかかりを感じるチトを「へんなこどもだ」と煙たがる。しかしチトは屈せず、自分の力を用いて刑務所に花を咲かせることを思いつき実践する。

「思考に気をつけなさい、それはいつか言葉になるから。」というマザー・テレサの言葉がある。この作品に限らずいえることであるが、はじまりはやはり思考だ。彼女は思考がきっかけで言葉、行動、習慣、性格、そして運命になると述べた。同じように、チトという小さな子供の考えは、やがて町や戦争の運命も変えるのだ。

作者も初めに記しているように、チトは特別な子供である。もちろんみどりのゆびを持っていることも特別だ。しかしその力を発揮できるのは、自身の考えをきちんと持っているからだ。チトは人の立場になって考える思いやりや、アイデアを実行する勇気も持ち合わせていた。それが何よりの『特別』である。

児童文学ということもあり、やさしい表現を用いているが、この話は子供だけのものではないことが読んでいてわかる。むしろ大人だからこそ感じるメッセージも多くちりばめられているのだ。 (安東次男訳)


【関連サイト】
・大阪樟蔭女子大学 学科ニュース「近現代文学ゼミ生の書評が「週刊読書人」に掲載されました!」(2018.5.17)
この記事の中でご紹介した本
みどりのゆび/岩波書店
みどりのゆび
著 者:モーリス・ドリュオン
出版社:岩波書店
以下のオンライン書店でご購入できます
2018年5月11日 新聞掲載(第3238号)
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