春の庭 書評|柴崎 友香(文藝春秋)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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書評アイドル 渡辺小春が読む芥川賞
2018年5月14日

何も起こらない淡々とした日常の中で積み重なっていく時間を感じる心地よい物語
第151回芥川賞 柴崎友香著「春の庭」(2014年)

春の庭
著 者:柴崎 友香
出版社:文藝春秋
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春の庭(柴崎 友香)文藝春秋
春の庭
柴崎 友香
文藝春秋
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桜はもう散ってしまいましたが、私の一番好きな春の季節がやってきました。そこで今回は、第151回芥川賞を受賞した柴崎友香「春の庭」(初出2014年「文藝界」6月号)を選んでみました。

取り壊し間近となったアパートに住んでいる太郎は、隣に建っている水色の洋館に魅せられた同じアパートの住人、西と知り合う。彼女はお気に入りの写真集「春の庭」の舞台となっていたその家に、写真集の中の風景を追い求めてあらゆる行動に出る。ベランダからのぞいたり、入居者と仲良くしたり、次第に太郎もなぜか巻き込まれ……。何も起こらない淡々とした日常の中で積み重なっていく時間を感じる心地よい物語。

「春の庭」という題名を聞いて何を思い浮かべるだろうか。私は、あたたかい日差しを浴びた春の庭で起こる殺人ミステリーや、サスペンスをイメージしていた。しかし、この物語に出てくる「春の庭」とは、CMディレクターと、小劇団の役者の夫妻が撮影した写真集だ。そこには、無邪気な表情を映したもの、黄緑色のモザイクタイルが全面に敷き詰められた風呂場、梅や小さい花が咲き誇った春の庭といった、二人が生活する素敵な西洋風の家の写真で構成されている。私も想像して、そんな素敵な写真集に魅せられた。

物語全体を通してそこに描かれているのは、アパートの木にいる虫についての住人同士の会話や、不発弾のニュースをみて思う事、自分の元に届いたいらないお土産、一日一日の何気ない思い出話など。どれも私たちにも共通しそうな日常の風景だ。

この小説を読んでいて、何も起こらなくてつまらない、でも心地良いと感じたのは、そういう場面と私たちの日常の場面が重なって想像が膨らむからだと思う。

いつものことだが、小説を読むと不思議な感覚に襲われる。いつの間にか感情移入をしていて、読んだ後の世界は、五感が研ぎ澄まされて、ちょっと違う世界に変わる。音、匂い、景色、味、感触がいつもと同じようで、あれ? これってあの小説と同じ? みたいな。

私は、小説の、この不思議な力が好きだ。「春の庭」でも、ふとした日々の普通のことが小説の世界に見える。日常から本の世界に飛び込むと、生活を客観視して、新しい世界を私に見させてくれる。私が本を好きになったのも、この力に魅入られたからだと思う。通学路にある大きな家の奥にある春の日差しを浴びた庭がちょこっと見えた。その時に「あっ、春の庭だ」と思った。皆さんも本を読んで違う世界にお散歩しに行くのはいかがでしょうか。


【おまけ】
「ぽかぽかお散歩。春の庭です。」
この記事の中でご紹介した本
春の庭/文藝春秋
春の庭
著 者:柴崎 友香
出版社:文藝春秋
以下のオンライン書店でご購入できます
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