「大学生、限界集落へ行く」「情報システム」による南魚沼市辻又活性化プロジェクト  / 森本 祥一(専修大学出版局)学生たちのみずみずしい感性 東京では得られない多くのモノが残ったはず|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2016年10月21日

学生たちのみずみずしい感性 東京では得られない多くのモノが残ったはず

「大学生、限界集落へ行く」「情報システム」による南魚沼市辻又活性化プロジェクト 
編 集:専修大学経営学部森本ゼミナール編
出版社:専修大学出版局
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私の身体の中をさわやかな風が吹き抜けていった。私の孫の世代の若者が「限界集落」に体当たりでぶつかり、風となってそこに住む人たちにさざ波を起こした。本書はそんな記録だ。

私は、彼ら彼女らと50歳以上違う。当然、同じ時代を生きていながら違う世界にいる。作家の高橋源一郎さんはある集会でそれを「タイムスリップしているかのよう」と表現した。ドストエフスキーもモーパッサンも知らない世代だと。だから彼らとどう向き合うかが我々の世代の課題。学ぶことが多い。

かく言う私は、学生時代には休みになると農村調査をしていた。福島、山形、岩手、長野、群馬がフィールドだった。手には農村調査の入門書を携えて。わかったのは、当たり前のことだが、本で読む農村の実態と現場は必ずしもイコールではないということだった。当時のことを思い起こしながら本書を読んだ。

本書をまとめたのは専修大学経営学部の森本ゼミの学生たち。マーケティング、情報システムをキーワードに新潟県南魚沼市辻又集落の「活性化」に取り組んだ。ここは新潟県南東部の谷あいにあり、上越新幹線浦佐駅から車で西に十五分の位置。世帯数が十五、高齢化率が六割を超えている「限界集落」だ。「魚沼のコシヒカリ」の産地ではあっても、生産量が少ないので、ブランドにはなっていない。

彼らはまずスマホが使えない現地に入り、手分けして全戸を訪問。暮らしぶりや集落の歴史、何をしたいかなどを聞いて歩いた。さらに、住民のゲートボールに加わり、住民との交流会を持ち、この地域の活性化をどう進めるかの素材にした。

調査や聞き取りで見つかった課題は、コメのブランド化、耕作放棄地への外部の農家、企業、研究機関などの誘致、ホタル観賞やバードウォッチングなどの観光やイベントの開催など。それらを具体化し、インターネット、ツイッター、フェイスブックなどで発信していく。

それだけでなく、東京・月島で開かれている「太陽のマルシェ」に出店し、企業の協力を得て米を使った加工品の商品化(ライスミルク)にも取り組んだ。

彼らはその後も田植え見学と新米の試食、山菜やミョウガ採り、ホタル観賞、運動会や雪まつり参加などで交流を深め、人の温かさや山菜のおいしさに感激する。「家に上げてもらい、知らないことをたくさん教えてもらって、本音で話してくれた時はとてもうれしかった」。

わずか一週間の体験とその後の活動は、すぐには目に見える形にはならない。しかし、間違いなく大学内や東京での暮らしでは得られない多くのモノが彼らに残ったはずだ。そのみずみずしい感性を持ち続けてほしい。それが農村に住む私の願いであり、期待だ。
この記事の中でご紹介した本
「大学生、限界集落へ行く」「情報システム」による南魚沼市辻又活性化プロジェクト /専修大学出版局
「大学生、限界集落へ行く」「情報システム」による南魚沼市辻又活性化プロジェクト 
著 者:森本 祥一
編 集:専修大学経営学部森本ゼミナール編
出版社:専修大学出版局
以下のオンライン書店でご購入できます
2016年10月21日 新聞掲載(第3161号)
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