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誰も見ていないから 第21回
2016年11月11日

誰もみていないから ㉑

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(鉛筆、越前和紙/2012年)ⒸShinjiIhara

「お前は普通の人間になるのか。」 

毎年、中学校では体育の授業の一環として持久走大会が行われていた。三年生最後の大会の帰り道、美術の先生に言われた一言が私の人生を変えた。

中学時代、生徒会長をやっていたこともあって担任の先生からは進学校の推薦を勧められていた。それを聞いていた美術の先生が、私が本当にやりたいことがあるのではないかと声を掛けてくれたのだ。すでに受験先は決まっていたのだが、高校でも絵が描きたいんだと担任に泣きながら伝えたことを覚えている。美術科のある高校を受験するためには、体験入学に行っておかなければならなかったのだが、美術の先生が高校にお膳立てをしてくれたお陰で受験することが出来た。

今思えば、先生が中学生相手に言う言葉ではないと思うけれど、あの時のあの言葉がなかったら、違う道を歩んでいたかもしれない。普通に進学して、普通に勉強して、普通に就職して。

少し曇った日の夕暮れのあの帰り道、先生に言われた言葉は一生忘れない。
2016年11月11日 新聞掲載(第3164号)
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