キルト作家・デザイナー・こうの早苗さん (上)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2016年11月18日

キルト作家・デザイナー・こうの早苗さん (上)

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福岡に暮らし、キルト作家として、洋服を制作するデザイナーとして、国内のみならず台湾、中国にも多くのファンを持つこうの早苗さん。大人の女性の目を惹きつける、独特の布合わせによるパッチワークが施されたバッグ、幅広い年代に対応する柔らかなラインのワンピース。初めてお会いしたのは今から二十二年前。新しい雑誌の創刊準備に追われている、ある日のこと――。

主婦と生活社に勤めていた一九九一年に『私のカントリー』を創刊。そして一九九四年十月に『コットンタイム』と名付けた“布のある暮らしを楽しむハンドメイドマガジン”を創刊する。テストとして三冊出したが、当初から隔月刊化を狙い、体裁は中綴じ。簡易な仕様にさまざまなテーマを詰め込んだ、一般の方々の作品をたくさん紹介する内容にしたかった。
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創刊準備に明け暮れる中、連載ページをお願いするために、こうのさんにお会いした。
「あの時のことはよく覚えています。本当に一番忙しかった三〇代の後半で、大げさに言えば睡眠時間も三、四時間でした」

『コットンタイム』では暮らしの中の手作りを取り上げたかったので、いわゆる作家といわれるような著名な先生の作品は極力紹介しないという方針。ただ、たった一人だけ、みんなが知っている憧れの存在、そんな方の作品が毎号載っている雑誌にしたかった。こうのさんはそのころ、もう何冊もの単行本を出していたが『おしゃれなふだん着』というタイトルの本が、私の頭から離れなかった。当時はハイファッションなおでかけ着とふだん着との間にはへだたりがあって、例えば家にいることの多いミセスが、心地よくおしゃれに過ごせる服などなかったと思う。ページを開いた時に、「連載をしていただくのはこの人しかいない!」 そう思ったのをよく覚えている。

流行に左右されないまさに“おしゃれな普段着”が、ページを繰るたびに次々に現れる。聞けばこの著者は、キルト作家としても独特の立ち位置をもっているという。この初めての出会いから二十二年、『コットンタイム』での連載は十年以上続き、こうのさんの著者本も四冊出すことができた。

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優雅で品のある布合わせが特徴のキルト
短大を卒業したこうのさんは広告会社に入社し、グラフックデザイナーを目指して、洋書を見続けた。「会社の中では下っ端。文字の大きさを決めたり、レイアウトをしたり。白い紙と黒いインクばかり見ていると、もっと色と関われるようなことがしたいなぁと思うようになって」。紙に触れているときに、これが布だったらどんなにいいだろうと思う瞬間があったという。

その後二十三歳で結婚、同時に仕事を辞め専業主婦となる。「当時は米軍ハウスに住んでいました。ここは天井が高く、床はすべてフローリング。日本のお布団が似合わないんです。だからここに似合いそうなものをとにかく自分で作っていました。タオルからバスマットを作ったり、カーテンもシーツも。二十四歳の時に長男が生まれて、ジーンズをリメイクして子供用のオーバーオールを作ったりしていました」

ご主人を亡くされたのは三十一歳の時。ここから九歳になる長男と七歳の長女との“運命共同体”のような暮らしが始まる。「ドラマのように泣き続けたり、落ち込んだり。そんなことをしている時間はなかった」

仏事が終わったら、翌日から子供たちは学校に通い、成長し、時は進む。主婦だったこうのさんが世帯主となり、働いて食べていかなければならない。そんな中、日々の生活の必需品として作っていたものが人の目に留まり、「作り方を教えて!」といわれるようになって手作りの教室が誕生したり、こうのさんの着ていた服を見た出版社の人から「本にしませんか」と声がかかったり。

こうのさんは“ひらめきの人”。手作りが子供の頃から好きだったわけではない。日々の暮らしをより快適にするための試みが、キルト作品であり、洋服のデザインになった。先を見据えた計画を立てて今があるのではなく、「その時その時で出会いがあり、とても恵まれていた」と言う。そして「子供たちが私に合わせてくれて、私が一番迷惑をかけていたような気がする」とも。

こうのさんとは仕事を通じて何度もお会いしているが、どんな時も全力で事に当たろうとする姿勢は全く変わらない。そしてどんどん若くなっているように思う。その秘訣は、女性なら大いに気になるところ。いつも笑顔を絶やさないこうのさんに、次回でもさらにお話を聞く。
2016年11月18日 新聞掲載(第3165号)
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