第14回 パピルス賞  授賞式開催|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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受賞
2016年11月18日

第14回 パピルス賞  授賞式開催

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「アカデミズムの外で達成された、学問的業績や科学ジャーナリストによる学問と社会を結びつける業績」を対象に贈られる「パピルス賞」(公益財団法人関記念財団主催)の第十四回授賞式が、十一月一日、千代田区一ツ橋の如水会館で開かれた。受賞作は、長谷川宏『日本精神史 上・下』(講談社)と安本千夏『島の手仕事 八重山染色紀行』(南山舎)の二作。後者は昨年九月に刊行された。版元の南山舎は、日本最南端の出版社として知られ、これまでにも八重山諸島にまつわる書籍を多数出版し、二〇一一年には、同社発行の前新透著『竹富方言辞典』が第五九回菊池寛賞を受賞した。

島の手仕事(安本 千夏)南山舎
島の手仕事
安本 千夏
南山舎
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『島の手仕事』について、選考委員の納富信留東京大学教授は、次のように選考理由を述べた。
「日本の一番西にあたる地域で、これまで受け継がれてきた織物・染色技術について、著者は十八人の方にインタビューしています。織物だけでなく、風景や人物が美しい写真とともに紹介されています。島の生活の息吹や、リズムがゆったりとして、かつ奥深い様子。鮮やかな光と闇、海の音まで、読んでいて伝わってきます。インタビューされた方の多くは年配の女性で、戦争中と戦後の苦しい時期を体験されてきた人たちです。強制移住であったり、私たちが知らない歴史を送られてきた。そうした女性たちの手仕事、島の歴史や人の生きざまが、ひとつひとつの章から浮かび上がってきます。しかも島によって、全然違う歴史と自然の趣があることがわかる、素晴らしい本です」。


八重山諸島に長らく住居を構えた経験を持ち、同書にいち早く注目した、ノンフィクション作家の下嶋哲朗氏は本紙の取材に対して、以下のコメントを寄せた。

――東京の原宿通りを歩いていると、紺碧の海に浮く八重山の島々が出現した。消費が文化の街と、生産が文化の島の出合いだ。さあ、広い道を埋めつくす人人人の反応はどんなだろう。わたしの目は、シャッター通り化した原宿に、きらと光を放つ自立する八重山織り姫を見た。本書が、こんな起こりうる将来を着想させるのは、伝統織物の織り手たちの魂をただよう、ことばの手触りによると思う。

「織物で商売を? そんな風に考えたことは、一度もないですねえ」

「染めること織ることは、家族を思う私たちそのものだから」

「私は守られている。初めて八重山を訪れて、リーフを見た瞬間、そう思ったの」

島は宇宙だ。けれども内に入れば宇宙は見えない。NYの女神の中に入ると女神は見えなくなるように。でも胎内に在る。著者はその喜びを表す。

「仰ぎ見る天空とのつながりを再確認するたび、心がゆるりとひらかれていくのがわかる」

「沖縄の血って、いったいなんだろう」と問いかける織り手がいる。地を耕し種を蒔き花を咲かせ稔る。実は島の血をひくように、人は伝統をひいているのだ。著者はこういう。

「あたりまえを伝え続ける。織り手のそばにいるだけで感謝の思いが立ちのぼってくる」

読み終えてなおもじんと熱いのは、著者の在る宇宙につながりつつあるのだ。本文とは不可分の写真が、存分に宇宙からの光を浴びせかけてくるからだ。



安本さんの受賞の言葉は以下。
「私は、西表島の手つかずの自然にあこがれて移住し、住んだことをきっかけに地元の方から織物を習うようになりました。島には苧麻や芭蕉といった糸素材、八重山を北限とする藍染めのための植物をはじめ、染料になる草木がたくさんあります。織機や染織用具も、島の木を使って、八重山で造られています。イリオモテヤマネコ、ジャングル、東洋のアマゾンといった印象の西表島に、豊かな染織文化があることに驚きました。そして、八重山には、島の数だけの染織文化のあることを知るようになります。家庭の主婦やおばあさんたちが、お天気と相談しながら、畑仕事、家事の合間に、少女のように目を輝かせて、たのしみながら織物をなさっていました。手を動かしながら語る、何げない言葉に、その人の人生が凝縮されているんです。島の織物があるのは「風と太陽と海のおかげだから」。「八重山の織物には祖先の祈り、織り手の願いが魂となって織り込まれているのです」。「忘れてはならないものがある。それが、文化というものでないかね」。みなさんとの語り合いの時を多くの人と分かち合いたいという想いから、日本最南端の出版社、石垣島の南山舎さんと一緒に本をつくりました。この度の受賞は、八重山のみなさまの生き方への称賛ととらえ、これを励みに、私もよりよい仕事をしていきたいと思っております」
2016年11月18日 新聞掲載(第3165号)
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