超高層エレベーターに軟禁し「愛している」と呪文を言えり 谷岡亜紀『臨界』(1993)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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現代短歌むしめがね
2016年11月25日

超高層エレベーターに軟禁し「愛している」と呪文を言えり 谷岡亜紀『臨界』(1993)

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ストーカーという言葉が生まれるはるか以前に詠まれたストーカー短歌。よく間違われるそうだが、作者は男性。大都市を舞台に、戦争やテロリズムといった暴力の世界を真っ向から主題に据えることに特色のある歌人である。アジアの国々を旅行した経験をもとに、猥雑なエネルギーを放つ無国籍的世界観を描いてみせた短歌も得意とするところで、その作風にはハードボイルドの香りすらまとっている。

永山則夫連続射殺事件や毒入りコーラ事件といった実在の事件を題材とした短歌もあるがあえてこの歌を選んでみたのは、エレベーターというのが現代短歌で不思議と偏愛されており、頻繁に詠まれるモチーフだからだ。社会から隔絶された密閉空間に、異世界への出入り口を見出すからだろうか。

軟禁してまで必死で伝えようとする「愛している」なんて普通は伝わらない。相手はなかなか聞く耳を持たないだろう。しかしこれは告白ではなく「呪文」なのだ。逃げ出すことのできない場所に閉じ込めて呪文を唱え続けていれば、もしかすると洗脳に成功するかもしれない。そんなわずかな希望だけをもとに、狂ったポジティブさで男は愛を語るのだ。しかしそこは部屋ではなくエレベーター。移動するための「仮」の空間であり、いつかは止まって扉が開く。どうせいつかは壊れる自分だけの絶対的空間を作り上げてわがままな愛を振り回す滑稽な男の姿は、現代の日本人そのものの象徴なのかもしれない。
2016年11月25日 新聞掲載(第3166号)
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