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あの人に会いたい
2016年12月9日

evam evaデザイナー・近藤尚子さん (上)

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カシミアのセーターや、ウールのレギンスは秋冬のファッションアイテムとして、幅広い年代の女性たちに支持されている。なかでも山梨県で企画・生産されるevam evaのニット。七〇年に亘り受け継がれてきた技術をバックボーンに、衰退の道をたどり始めた会社の舵を大きく切り、ファクトリーブランドとして見事に再生させたのが、今回取材させていただいた近藤尚子さん。


今から十二年ほど前。私は主婦と生活社で発行する、新しい雑誌の創刊準備に奔走していた。ようやく巻頭ページの撮影までこぎつけたある日、スタイリストさんが、柔らかく肌を包み込むようなベージュのソックスを持って現れた。聞けばカシミア一〇〇%でできているという。「なんて贅沢な、でも足を入れたら気持ちがいいだろうな――」。evam eva(エヴァム エヴァ)という名前を初めて耳にしたのが、この撮影だった。

それからしばらくしてナチュラル系のファッション誌『ナチュリラ』を統括していた時、南青山で開かれるevam evaの展示会によばれ、オーナー兼デザイナーの近藤尚子さんと話をする機会を得た。小柄で静かな佇まいの女性は、evam evaのシンプルで質のよい服が実によく似合い、柱に隠れるようにして控えめに立っていた。

    *
「私、本当は見かけによらないんです」

ささやくような声で語るその内容は、意に反して熱く、覚悟さえ含んでいる。山梨県・甲府盆地の地場産業を、もう一度何とかしたい。強いまなざしが、こちらに迫ってくる。

大学卒業後、花が好きだったこともあり第一園芸に入社するが、一年でやめてしまう。「きっとサラリーマンが性に合わなかったんでしょうね。祖父が興した近藤ニットという会社は、昨年で創業七〇年になりましたが、当時は父の代になっていました。この頃は、DCブランドが陰りを見せ始めたころ。アパレルメーカーの下請けでニット製品を作っていましたが、このままでは生き残っていけないと、父も危機感を募らせていました」
「実家に帰って、家業を継ごう」、そう心に決めた尚子さんは、和歌山県にある(株)島精機製作所に一ヶ月半の研修に入り、編み機の知識を蓄えて故郷に戻った。「それから現場に入って三年、編みの工程から、キャドと呼ばれるコンピューターによる設計、柄が出来上がる工程、機械のメンテナンスまで、とにかく必死で学びました」

evam eva吉祥寺店
そして二〇〇一年、サンスクリッド語で「かくのごとし」という意味の“evam eva”で商標を取る。東京の広告代理店をやめ、故郷に帰ってきていた幼馴染と結婚。婿養子となって近藤ニットで肩を並べて働くことになった。
「自分たちが価格決定権を持てない仕事はするべきではない」。これは近藤さんご夫妻の一貫した考え方で、商品の企画、製造、販売まで、自社ですべてをコントロールする体制の基盤が出来上がっていった。
「アパレルやデザインの勉強はしてこなかった」という尚子さん。「まず販売対象を絞り、その購入者層に合ったコンセプトを決めて、そこからすべてを構築していく。それが普通のブランド形成のあり方だと思いますが、私は自分が欲しいものしか考えつかなかったんです」。自分の欲しいものだと、よりメッセージは強くなるはず。「そうですね、でも本当にそれしかできなかったし、わからなかった」

尚子さんは続ける。「世の中が変わっていくと、トレンドも変わります。それを全く見ないわけではないし、あぁなるほど、と思う部分はあります。でも、やはり好きじゃないものは作れないし、自分が着ないであろう物は作れない。売れ筋を追うだけでは後ろめたくなってしまいます」。

evam evaをずっと見てきたが、ベースに流れている音やリズムは当時から少しも変わらない。軸がぶれないから、お客さまはいつも安心して尚子さんが形にする世界観を共有できるのだろう。

穏やかでゆったりと構えているように見える尚子さんだが「仕事に追われることはないですか?」と聞いてみた。「お客さまにタイムリーに商品を届けるために、制作期間をきっちり計らなければと考えます。生産の背景をスムーズに動かそうとすると、どうしても前倒していかなければならないことばかりで、追われることが多いです」と笑う。

今は来年の秋冬物を企画中で、同時に、生産しているのはもうすぐ最後の出荷となる今期の秋冬物、そして次のシーズンの春夏物の仕込みが始まっていて、尚子さんを筆頭に六人のメンバーによる企画チームは、まずどこのタイミングの話なのか確認することから、打ち合わせが始まるという。

evam evaの世界観を社員やお客さまと共有する試み、次回はそのあたりのお話をうかがう。(次号につづく)
2016年12月9日 新聞掲載(第3168号)
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