【横尾 忠則】ちょっとサイボーグ気分 地図持たぬ未完の航海|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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日常の向こう側ぼくの内側
2016年12月16日

ちょっとサイボーグ気分
地図持たぬ未完の航海

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2016.12.5
 郷里の町の中心に連売市場というのがあってその中に洋服店があった。気に入ったスーツがあったので値段も見ずにカードで買った。70万円のスーツはぼくにとってはふさわしくないと思い、市場内の管理事務所に行き、他のと交換したいと申し出たが一度買った物は払い戻せないことになっていると断られて、その上相談料として一万円払わされた。自分のドジさを悔んでみたが、うまい具合にここで目が覚めた。その瞬間、夢の高徳に救われ、思わず感謝したものだ。昼夜の虚実を生きることでぼくは倍の人生を楽しんだり苦しんだりしている。

「暮しの手帖」の花森安治氏についての取材。この本は子供の頃からあったが生活を解剖するような雑誌なんて道徳的で倫理的で全く鼻持ちならない雑誌として見向きもしなかった。そんな無関心な雑誌からの取材になぜか心が動かされた。しゃべっている間に現在の僕の作品に生活感が欠如していることに気づいた。但し僕の生活にはアートの狂気が必要だけどね。

イタリアのあるファッションメーカーからコラボの仕事がきているが、「ある」なんてもったいつけんなよ。企業秘密かね、やっと明かしたのは「ヴァレンティノ」だ。エッ! スゲエじゃん。色んな商品やショーや、ウィンドー装飾まで綜合的なプロジェクトの依頼だ。ラテンぽく正直に名乗りなさいよ。

2016.12.6
 晴天なれど身を切る寒気に怯える。
気分転換に点滴を受ける。点滴中の小一時間は画集を見たり、無心を装ったりでちょっとサイボーグ気分になれるので好きだ。
アトリエにてオノ・ヨーコさんと(撮影・徳永明美

オノ・ヨーコさんから恒例の歳末福袋(トートバッグ)が届く。中味は3枚のCD、Tシャツ、ジョンの豪華カレンダー。ヨーコさんはぼくの絵のビッグコレクターの一人。

2016.12.7
 中国の雑誌「知日」の取材。非常に優秀なインタビュアー。日本に限らず外国人のインタビュアーはほとんど女性。男性は書斎から一歩もでていない発想だけど女性はその肉体と生理から発想する知性でこちらの動物的本能をえぐり出してくれる。その時いつもの自分でない自分が飛び出す。その快感が郷里の野山を駆け巡りだすのだ。つまり子供に帰れるということ。

夕方、点滴ドーピングパワーで久し振りに朝日新聞書評委員会へ。皆んなから「久し振り」と声を掛けられる。久し振りなのも難聴のせいなのよね。人の声がひとかたまりになってボワーンとしか聴こえないわけ。笑い声など空間に亀裂が入ったかと思うほど巨大化して嗤う。結局書評対象の本は一冊しか取れず。まあこれで十分。

2016.12.8
 神戸から平林さんが展覧会の出品作品の返却に。お土産だといってストーンズのトレーナーとお菓子をプレゼントしてくれる。彼女はいつも何か気の利いたものを持ってきてくれる。心に余裕のある人なんだよな。そこへ長崎から核廃止の会議から帰京された山田洋次さんがひょっこり。明日は北京で「家族はつらいよ」の中国映画のリメイク版撮影の現場を訪ねるとか。海外旅行御法度のぼくには山田さん85歳その行動力に感心する。

夜、レンタルDVDで「ターザン」観る。吹き替えのスーパーなしのため100%聞こえず。あの悲哀のある雄叫びもなく、ズボンを履いたターザンはスパイダーマンみたいにCG世界で飛び廻って、原始の世界を超文明化に変容させてしまった。

2016.12.9
 ブルータスで80代を対象に80年間如何に生きたかを四回連載語らされる。そうだなあ、ぼくの人生はやっぱりなるようになったとしかいいようがないよな。郵便屋さんになりそこなってデザイナー、そしてデザイナーに飽きて画家になったのも、なるようになった結果で、この先だってなるようになるんじゃない? 考えてみれば運命に逆らいそこねた結果だし、逆らう必然性も見つからなかったのよね。なるようになるとは航海地図を持たないで行き先き不明のまま海洋に出るようなもので、座礁や沈没の危機もあったけれど、それもなるようになるプロセスなんじゃなかったかな。だからいつも達成感がないまま、全て未完で終る。人間は未完で生まれて、未完で生きて、未完で死ぬ。それで結構。

2016.12.10
 豊島横尾館の福武さんより豊島ミカンが届く。

2016.12.11
 朝日新聞の依田さんと増田屋↓風月堂。なんでもありの話を3時間ほど。ゴタゴタ続きのオリンピックは開催できるの? エンブレムのデザインの小さいチップをひとつ取りはずすと、全部が一気に空洞内に崩落してパラリンピックのエンブレムのように下方にチップが山積する。そんな不吉な暗示をあの二つのエンブレムは予感させる。

夜、チャップリンの「サーカス」をDVDで。チャップリンの綱渡りの演出と演技はノーベル賞ものだ。永久保存!
2016年12月16日 新聞掲載(第3169号)
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