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Forget-me-not
2017年1月6日

Forget-me-not①

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ネパール、山間部の村で、生活の為に30年前にインドの売春宿に売った娘を思い出す父親。ⒸKeiji fujimoto


2014年8月。朝早くに目が覚めた。陽はまだ昇っておらず、眠った大地を覆う東の空は暗かった。僕はエアアラビアの機内サービスでコーヒーを頼み、これから始まるケニアでの生活への期待と不安の中で揺れ続けていた。

思春期を迎え、ゲイであると感じ始めた頃から、世の中に絶対的に正しい価値観など存在しないと信じてきた。よく晴れた太陽のもとでこそ、大地にくっきりと刻み込まれる影。そこに生きる自身の宿命を自覚したのだ。

ネパール山間部の少女売買、ムエタイギャンブルに生きるバンコクの人びと、中朝国境での密輸や脱北者たちなど、若き僕が写真家として敢えて選び映し取ってきた写真の中には、常に社会の少数派として生きる人々の『苦しみ』が映し込まれていた。

己の核心に触れられることは許さず、苦境に在る人々の姿を通して感情を代弁してもらい続けている。いつしか自身が卑怯だと感じる様になっていった。そんな僕が30代を迎え、新たな歩みとして『同性愛』を東アフリカで撮影するのを決断したのは、必然的なことだったのかもしれない。

着陸の時間が迫っていた。
「これから始まる撮影はきっと、自分自身を見つめ続ける日々にもなるだろう」

心で反芻する僕の横で太陽が昇り、朝日に照らし出されたナイロビの高層ビル群が光り輝いていた。
2017年1月6日 新聞掲載(第3171号)
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