兵ら互に嗤ひ合ひつつ黒黒と大蔵省の壁にFuck!と 高島裕『旧制度 アンシャン・レジーム』(1999)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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現代短歌むしめがね 第67回
2017年1月6日

兵ら互に嗤ひ合ひつつ黒黒と大蔵省の壁にFuck!と
高島裕『旧制度 アンシャン・レジーム』(1999)

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つまり、ほくそ笑みながら兵士たちが大蔵省の壁に「Fuck!」と大きく落書きしたということである。最高のエリート官庁の地位は、暴力によって占拠され崩壊したのだ。この歌は「首都赤変」という連作のうちの一首なのだが、少年少女たちが東京で一斉蜂起してクーデターを起こすという設定となっている。レジスタンスたちはジープを鮮やかに奪って盗んでいったり、老人たちと祝福の酒を酌み交わしたりする。渋谷や新宿アルタ前といった現実の地名が詠み込まれ、空想と現実はしばしば交錯する。「大蔵省」もその一つだろう。黒い銃を背負って闘いに赴く少女たちが登場するなど、SF漫画やアニメからの影響を濃厚に感じる設定が多い(ちなみに同じ歌集には『新世紀エヴァンゲリオン』を題材とした作品もある)。それでいて文体は、アナクロ気味ですらある前衛短歌そのものというギャップも面白い点だ。レジスタンスたちが官庁へと向かい、国の本丸である大蔵省を追い詰めてゆくという流れも、かつての学生運動を模している。

漫画や小説の焼き直しにすぎないとはいえ、文体も含めて周到に世界観を設計してフィクションを作り上げた「首都赤変」は現代短歌の想像力の枠を広げた。そして現実には決して起こせない犯罪や暴力を描くことで、さまざまな挫折を経て東京で清掃作業員として日々働き続ける高島裕のような人間の、どんなリアルよりもリアルな心の真実を映し出せることを証明してみせたのだ。
2017年1月6日 新聞掲載(第3171号)
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