【横尾 忠則】夢の中で夢日記を書く 死の不在という存在感|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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日常の向こう側ぼくの向こう側
2017年1月6日

夢の中で夢日記を書く
死の不在という存在感

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アトリエにて佐藤愛子さんと(撮影・徳永明美)

2016.12.19
 今朝の朝日新聞の鷲田清一さんの「折々のことば」にぼくのことばが抜粋されている。「時間よりも、むしろ何を何回やったかという『回数』のほうが、大事なんです」。どーいうことかというと、ぼくは飽きっぽい性格で何を何回やってきたかが大事で、自分の年を80歳という時間で考えたらアカンということ。人生を時間で考えるから終活などへ行く。時間の代わりにぼくは回数券を沢山持っているんです。

佐藤愛子さんが来られるというのでアトリエを掃除してお迎えしなきゃ。93歳の佐藤さんに、何んでそんなにお若いんですか?「わがままだからでしょう」。わがままならぼくも負けてないけど。「初めてお会いした時横尾さんは独身だと思っていました」。あの時は70歳台ですよ。「所帯じみてらっしゃらないので」。そーか、そーいえば生活感が希薄かも。生活の中に芸術を発見する術が芸術でなきゃいけないのに。8時間近く佐藤さんの世界に憑依されていた一日でした。なぜか、ずっと昔から知っているような魂の親和性を抱く。「あの世で仲よくお手々つないで遊びましょう」とゲストダイアリーにメッセージを戴く。

2016.12.20
 穂村弘さんと編集者の中川ちひろさん来訪。美美の絵で絵本を作ろう、という企画。穂村さんの文はマジカルな魅力がある。絵画に近いものがある。

ヴァレンティノ・ジャパンの氏原千佳さん来訪。オートクチュールのデザインにぼくの60~70年代の図像をアレンジ、そのショーの美術(空間インスタレーション)とウィンドウディスプレイの依頼。イタリアの仕事である。

2016.12.21
 gggギャラリーの北沢さん、カレンダーと塩昆布持って来訪。
岡部版画工房の牧島さんが野菜を大量に持って新作版画の打合せに。

2016.12.22
 テレビの番組と無関係に突然画面の中をUFOがジグザグ飛行。面白い現象だから日記に赤いペンで記述する。夢の中で夢日記を書く。
山田洋次さんと対談というかインタビュー。老齢における創造の至福みたいなことがテーマだったが中国の映画事情やホドロフスキーの映画の話や、松竹映画の雨はしとしと降るが、東宝は黒澤的豪雨、そんな雨の降らしかたの映画会社による相違など、やっぱり山田さんは映画の話になってしまう。

2016.12.23
 調布の東京現像所で「家族はつらいよ2」の試写に家族揃って。久し振りに小林稔侍さんから高倉健さんの話を聞く。稔侍さんとの共通の話題はやっぱり健さんの話になる。生活感の必要を感じた健さんがある日一人で地下鉄に乗ってみたいと銀座から乗った。稔侍さんは車で先き廻りして青山の地下鉄の出口で待っていると、鳩が豆鉄砲をくらったような健さんが額から汗を流しながら階段を上ってきた。そんな話を聞く。「家族はつらいよ2」は稔侍さんが死ぬ話で映画の後半は死体の出演だけだが、その不在感がかえって、その存在が中心の話になっていく。映画が終って隣の席の稔侍さんがなんだか幽霊に見えた。

2016.12.24
 道端で絵を描いていると、高校生が通りすがりに「誰の影響も受けないで頑張って下さい」と激励してくれた。
富山県立近代美術館で屋島を主題にした展覧会が企画されている。一〇〇号の絵があるので、と退館した片岸さんのあとの担当学芸員の及川さんに伝える。覚醒して気づいたが現実には一〇〇号の絵もなく、及川さんという人もいない。夢は一体誰が創作するのか、夢はしばしばウソをつく。

冬至が過ぎた。気のせいか日の暮れるのが少し長くなっている。制作時間も伸びた。

2016.12.25
 夢を見なかった日は映画を見に行って最初から最後まで眠っていたのと同じ感じだ。以前「トリコロール」というフランス映画のポスターを作ることになって試写室に入るなり睡魔に襲われた。目が覚めた時、エンディングタイトルが下から上に流れていた。導入からいきなりエンディングタイトルか? と思って見ていると、やがて試写室に電気がついてドヤドヤと客が出ていった。結局映画を見ないままポスターを作ることになった。
山田さんが、この前は夕方だったので昼間にもう一度わが家の外装のペインティングを見たいと来られる。成城の町全部をカラーフルに塗装できないかなあ。

陽が落ちる前に公園のテラスで岩波文庫三冊の推薦文を書きにいくが、落日と共に急に冷えてきた。アトリエに戻ると、まだ陽が空にあって部屋の内部に光が差し込んでいた。アトリエが高台にあったことをあらためて認識する。
夜、全国高校駅伝をビデオで。わが優勝常連だった西脇工はアカンかった。
2017年1月6日 新聞掲載(第3171号)
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