村田沙耶香さんが新書を買う 紀伊國屋書店新宿本店にて|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 特集
2017年1月6日

村田沙耶香さんが新書を買う
紀伊國屋書店新宿本店にて

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新年恒例「新春特集・新書のすすめ」をお届けいたします。一面「新書を買う」では、作家の村田沙耶香さんに、書店店頭で今すぐ読みたい新書を選んでいただきました。二面以降では、各版元選りすぐりの新書をご紹介。著者が自著を語る「私のモチーフ」、各社新書編集部から「売行き好調の10点」リストと、その中から一冊の紹介、さらに「近刊ピックアップ」で刊行予定の一冊も教えていただきました。今を映す最新の新書情報をご堪能ください。(編集部)

村田沙耶香さんが選んだ16冊の新書

●長尾和夫、アンディ・バーガー著『英語で返事ができますか?』(角川oneテーマ21)
●田村明子著『ニューヨーカーに学ぶ軽く見られない英語』 (朝日新書)
●岸久著『スタア・バーのカクテルブック』 (文春新書)
●Fr・シュレーゲル著『ロマン派文学論』(冨山房百科文庫)
●倉阪鬼一郎著『怖い俳句』 (幻冬舎新書)
●小松左京著『SF魂』 (新潮新書)
●加賀乙彦著『小説家が読むドストエフスキー』 (集英社新書)
●上田篤著『縄文人に学ぶ』 (新潮新書)
●松井孝典著『宇宙人としての生き方』 (岩波新書)
●管啓次郎、小池桂一著『野生哲学』 (講談社現代新書)
●内山昭一著『昆虫食入門』 (平凡社新書)
●荻上チキ著『セックスメディア30年史』 (ちくま新書)
●永田良昭著『心理学とは何なのか』 (中公新書)
●唐澤太輔著『南方熊楠』 (中公新書)
●初見健一著『子どもの遊び黄金時代』 (光文社新書)
●池上彰『おとなの教養』 (NHK出版新書)

二〇一七年の「新書を買う」企画にご登場いただいたのは、昨年『コンビニ人間』で芥川賞を受賞した村田沙耶香さん。『ギンイロノウタ』で野間文芸新人賞、『しろいろの街の、その骨の体温の』で三島由紀夫賞を受賞、『殺人出産』『消滅世界』では新たなまなざしで、人間の性愛や結婚、出産を見つめ、「ヒト」という動物の姿を描き出した。VOGUEJAPAN WomenoftheYear2016にも選ばれ、テレビ、ラジオ、雑誌、トークイベントなどに引く手あまた。

社会に対する観察者の目を持つ村田沙耶香さんに、小春日和の午後、紀伊國屋書店新宿本店で新書を選んでいただいた。
◎長尾和夫、アンディ・バーガー『英語で返事ができますか?』(七〇五円・角川oneテーマ21)

「「これはシリーズで『英語で仕事ができますか?』『英語でケンカができますか?』などいろいろあるのですが、一番初歩的に感じられたものを選びました。以前イベントで、来日した海外の編集者さんとお話しする機会がありました。対談では通訳がついたのですが、楽屋で私の作品のことを、〈beautiful〉とおしゃったんです。その方が読んだのは「清潔な結婚」という変わった短篇のはずなのに、なぜ〈beautiful〉なのかとても不思議でした。後で他の方に、〈奇妙なものは美しい〉と言っていたよと教えてもらったのですが。英語ができたら、もっと文学についてお話を聞けたのに、という悔しさが残っていて、今一番学びたいものが英語なんです。

この本の面白いところは、一つの問いに対して、様々なパターンの答え方が書かれていること。英語の本は一問一答方式が多く、それを丸暗記するような単調な印象があったのですが、この本にはやわらかさがあって、ネイティブの人はこんなふうに答えるんだな、と読み物としても楽しい。例えば〈忙しくしてますか?〉という問いに答えるのに、〈とても忙しいですよ〉というスタンダードなものから、〈バタバタしています〉〈超、多忙ですよ〉〈ヘトヘトです〉まで。それから〈家まで送って行くよ〉という親切に対して、どう答えるか。〈君は天使だ!〉ってかわいいですよね。〈Thankyou!〉に対する答え方だけでも、日常用とビジネス用と、数パターン載っているんです。〈Pieceofcake.〉なんて答えられたらかっこいいですよね。とても易しく書かれていて、学びやすそうです。著者が日本人とアメリカ人の二人であるところも、洗練されていそうです」
◎田村明子『ニューヨーカーに学ぶ軽く見られない英語』(七六〇円・朝日新書)

「「タイトルは挑戦的ですが、内容はとても実践的。エッセイのかたちで英会話の基本やコツやマナーが書かれた部分と、会話例文からなる本です。例えば、お水をお願いするときに〈ついでのときに、持ってきてもらえますか?〉というような心配りがある言葉が示されています。レストランでのチップも、あげればいいというものではないんですね。ニューヨークの人の意識や、文化についても書いてあって、いつか行ってみたい街なので、読んでおきたいです。英語の本を二冊選んでいることに、今の自分の思いが可視化された感じがします(笑)」
◎岸久『スタア・バーのカクテルブック』(一一〇〇円・文春新書)

「バーが好きなんです。新宿には二十四時間営業の喫茶店があって、深夜まで外で執筆することができるのですが、そういう仕事のおわりに一杯飲んで帰りたい、というようなときがあって、ときどき一人でバーに行くこともあります。お酒、というよりは、あの空間が好きなのかな。インテリアとか、うす暗い中に光が当たっている場所とか。バーテンさんの個性が、バー空間を作っていると感じられる雰囲気も好きです。ただカクテルには全く詳しくなくて、だいたい最初はジントニック、二杯目からはおまかせか、果物系のロングカクテルとか、雑な注文でごまかしてしまう(笑)。この本の著者は、「スタア・バー」の現役のバーテンダーさんで、はじめに〈カクテルを頼まれるお客さまは、大体四つのタイプに分かれる〉と書いています。私は四つ目の、〈まったく何を頼めばいいのかわからない〉に属します(笑)。四十四のカクテルがカラー写真とともに紹介されているので、これを読んで、私もカクテルの名前を少しは知っておきたい。これも英語同様、今すぐに使いたい、実践を求めた選書ですね」
◎加賀乙彦『小説家が読むドストエフスキー』(六八〇円・集英社新書)

「小説家が読むという視点が気になり、手を伸ばしました。『死の家の記録』『罪と罰』『白痴』『悪霊』『カラマーゾフの兄弟』――五つの作品について、著者本人の読書の思い出を絡めながら書かれています。単なる評論ではなく、本当にドストエフスキーがお好きだという、感情が伝わってくる気がします。そして作品の構造や人物造形についての分析には、やはり小説家としての目が効いていますよね。評論を読むのとはちょっと違った発見がありそうな気がします。加賀さんの視点から、ドストエフスキーを追体験したいと思っています」
◎Fr・シュレーゲル、山本定祐編訳『ロマン派文学論』(一三〇〇円・冨山房百科文庫)

「ロマン派文学とは一体何なのか、恥ずかしながらよく知らないのですが、目次の中の、〈ゲーテの『マイスター』について〉それから〈文学についての会話〉の章――中でも〈神話についての議論〉と〈小説についての書簡〉に惹かれました。文学論を無機質な論文にせずに、小説の手法を織り交ぜて、友人どうしの会話の形、また書簡の形などでも表現しているんです。持って回ったような丁重な言葉で、なかなか辛辣に意見を闘わせている会話文が魅力的に映りました。一七九五年から一八〇三年に書かれた作品だということですが、二〇〇年前にも、このように文学を思考して文学に近づこうとした人がいたということを、本として受け取ることができるのは心強いです」
◎倉阪鬼一郎『怖い俳句』(八〇〇円・幻冬舎新書)

怖い俳句(倉阪 鬼一郎)幻冬舎新書
怖い俳句
倉阪 鬼一郎
幻冬舎新書
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「最近、長嶋有さんに東京マッハの句会や、長嶋さんの句会に誘っていただいたり、『小説 野性時代』の二〇一七年一月号で俳句対談もさせていただき、私の中で俳句が熱いんです(笑)。この本は、芭蕉から現代俳人までの怖い俳句を集め、一句一句に対し、何がどう怖いのかが解説されています。ミステリ作家である著者の視点で選ばれている怖い句、なんですよね。まえがきには〈恐怖と笑いは紙一重〉とあります。怖いだけでなく心に響く句が多いです。うわぁ…カタカナ表記、怖い、一目で怖い。〈ホントに死ヌトキハデンワヲカケマセン〉。〈いつまでも骨のうごいてゐる椿〉は、怖さと美しさが共存していますね。これを読んで、また句会に誘っていただいたときに、怖い俳句を読みたいです。“村田さんの俳句、いつも怖いね”と言われたら最高です(笑)」
◎小松左京『SF魂』(六八〇円・新潮新書)

SF魂(小松 左京)新潮新書
SF魂
小松 左京
新潮新書
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「小松左京さんに、このような本があったんですね、伝記のような……。〈SF作家として食べていく道を選んだ。SFが持つ「大いなる可能性」に気がついたからだ。ほかのどんな文学形式にもできないことが、SFならできる〉と始まっています。〈戦争がなければSF作家にはなっていない〉という小見出しも気になります。〈「右京」にしようか「左京」にしようか迷った〉というエピソードや、『日本沈没』を〈「もう刷らないでくれ!」〉という発言もあって、なんだかとても面白そう。そして〈SFは文学の中の文学である〉とも。ユーモアを交えながら、SFへの熱い思いを語っておられる感じが伝わります。小松左京さんの思いを読んでみたい。私は意図せずに、小説の舞台が近未来になるなど、広く言うとSF的と言われることがある作品を書くことがあって、自分のことながら不思議に思っているので、この本を読んだらその謎も自分自身の気持ちも、少しだけ分かるかもしれません。読むのが楽しみです」
◎上田篤『縄文人に学ぶ』(七二〇円・新潮新書)

縄文人に学ぶ(上田 篤)新潮新書
縄文人に学ぶ
上田 篤
新潮新書
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「『コンビニ人間』でも、登場人物の白羽さんに「縄文」を語らせていますが、とても興味のある時代なのです。歴史の教科書では短く終わってしまうけれど、本当は一万年もの長い間続いた時代で、割と人間という動物に合った暮らし方だったのではないかと思うんです。縄文というとはるか昔のように感じますが、実際には私たちとさほど変わらない肉体をもった人々が、現代の日本とは全く違う集落のシステムの中に生きていた。今よりお腹を減らしていたんだろう、そこにはどんな女性の苦しみ、男性の苦しみがあったのか、喜びとはどんなものだったのか、生理はどうしていたんだろう……などと想像していると、縄文時代がそう遠くは思えない。『消滅世界』で未来を想像したときにも、なぜか原始へ思考が飛びました。ひょっとしたらこの先の未来に、縄文時代と同じような暮らし方を人類は始めるかもしれないと。本の帯に〈神棚、ベランダ付き2DK、高級懐石、家計簿、鍋物…〉とありますし、〈晴れを着る〉〈土器の魂を込める〉〈旬を食べる〉とか。縄文は過去ではないし、そう遠い時代でもないんです、きっと。はやく読みたいです」
◎松井孝典『宇宙人としての生き方 アストロバイオロジーへの招待』(七六〇円・岩波新書)

「まずタイトルに惹かれました。そして目次を見て、〈宇宙人としての視点をもつ〉とか〈文明とはなにか〉とか〈地球をシステムとして見る〉というような、根源に触れる言葉が目にとまりました。これは宇宙人の目から見て、現代はどのような時代なのか、ということを説き明かす本なのだろうと想像しています。地球という星を宇宙人のまなざしで見る、という考え方が面白いと思うんです。私も、『消滅世界』で千葉県の実験都市をどんな場所にするのか考えたとき、カメラを地球の外に置いて、地球という星や、ヒトという動物の繁殖している姿を見てみようとしました。そうすることで、私たちが不思議な動物であることに気づけたんです。自分が小説でやってみたいことを、違うかたちで、もっと理論的に追及している本。今の気持ちにしっくりくる本です」
◎内山昭一『昆虫食入門』(八四〇円・平凡社新書)

昆虫食入門(内山 昭一)平凡社新書
昆虫食入門
内山 昭一
平凡社新書
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「口絵写真は、虫ミックスピザとか、モリゴキブリのダイコン巻き、カマキリチラシとか、なかなか衝撃的ですが(笑)、私は父方が長野のせいか、蝗や蜂の子は食べ物として疑問に思いません。飢饉で食べ物が底をついたときには、自然と昆虫を食べようという流れになるのではないか、と思っています。植物は毒をもつものがたくさんあって危ないし、動物に闘って勝つのは難しい。『殺人出産』では、おいしくて美容にも効果的と「蝉スナック」の流行している近未来の日本を描きましたが、現在でも昆虫が常食の国や地域がありますし、百年後には日本人もケロッとゴキブリを食べているかもしれないですよね。この本は、ゲテモノとして面白おかしくとり上げるのではなく、非常に真面目にその歴史と、おいしさ、栄養や食料資源としての価値、食育についてまでを伝えているところに、昆虫食への“愛”を感じました」
◎荻上チキ『セックスメディア30年史 欲望の革命児たち』(八二〇円・ちくま新書)

「一九八〇年代から二〇一〇年までの三〇年史なので、ちょうど私の生まれた頃からのセックスメディアが繙かれていることになります。ダイヤルQ2やテレクラが流行ったのはまだ子どもの頃。〈何がエロ本を「殺した」か?〉という章タイトルをみると、小学生の頃に公園にエッチな本が落ちていて、男子が騒いでいた風景が蘇ってきたりもします。今の時代は、最初のエロの記憶が動画なことがあると聞いたことがあります。風俗業界の変化に寄り添ってくることはできなかったので、この本で知りたいと思いました。

最近はオシャレなアダルトグッズも増えていて、資料を探しに、秋葉原の「大人のデパート」に出かけたこともあります。そのときは、キスの練習をする女の子を書きたかったので、舌が動くような奇妙なグッズを買ってみました。実際にはゴムの異臭がして作品には使えなかったのですが。美しいラブドールの世界にも興味があります。恋人のように大切にして、性欲の処理に使わない人もいるそうですね。

以前、女性著者の風俗ルポで、壁の穴に男性器をいれて立っていると、壁の向こうで一人の女性が、熟練の技を駆使していくつもの男性器を処理する、という風俗店のことを読んだことがあります。男性客には壁の向こう側は見えないので、どんな女性がお相手してくれているのか、想像をかきたてることができる仕組みのようでした。それを読んだときに“人間は、かわいい”と思いました。性愛というものについて、自分が男性だったらどんな感覚だったのだろうと考えることがあります。どんな思春期を送って、どんなふうに性愛に目覚めていたのだろうと想像するのですが、なかなか難しいところがあって。興味がある世界のことが、三〇年の歴史として検証されているところに惹かれました」
◎永田良昭『心理学とは何なのか 人間を理解するために』(八四〇円・中公新書)

「『ギンイロノウタ』や『タダイマトビラ』を書いたときは、〈母と娘の心理学〉というような、テーマの限定された心理学の本を読みました。この本は、より根本的な「心理学」そのものについて学問として解き明かしているのでしょうね。口絵に、〈夫が想起したリビングの風景〉と〈小学1年生の次女の想起したリビングの風景〉などが比べられていますが、この差異からどんな心理が分かるのか、とても興味深いです。初心者向けに丁寧に、根本から説き明かしてくれています。この本でならトータルに心理学というものを知ることができるのではないか、との期待を込めて。〈人間を理解するために〉というサブタイトルからも、誠実な本だと思うんです。心理学や人の心を信じていらっしゃる方が、真摯に追及された内容なのだろう、という想像から選びました」
◎唐澤太輔『南方熊楠 日本人の可能性の極限』(八八〇円・中公新書)

南方熊楠(唐澤 太輔)中公新書
南方熊楠
唐澤 太輔
中公新書
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「熊野に熊楠展を見に行ったことがあります。大きな展覧会ではありませんでしたが、熊楠という人にとても惹かれました。履歴書を長々と七・八メートルもの巻紙に仕立てたり、いろいろなエピソードのある方ですが、やはり〈粘菌〉に対する愛ですよね。〈大事にしている粘菌の瓶を割った姿に、激しい怒りがうかがわれた〉とか〈おもちゃの箱に粘菌の瓶がびっしり詰め込まれていて、家族に辟易されていた〉とか、エピソードが奇抜な上にチャーミングなんです。学者としての権威や名声のためではなく、本当に粘菌が好きで、好きな研究のために一生を捧げた人。この本もパラパラと眺めると、粘菌から悟った死生観についてや、きれいな粘菌に喜んで、顕微鏡を家族一人一人の度に合せて見せてくれた、という家族の思い出などが書かれています。読むのが楽しみです。南方熊楠も今、私の中でブームです(笑)」
◎管啓次郎、小池桂一『野生哲学 アメリカ・インディアンに学ぶ』(八〇〇円・講談社現代新書)

野生哲学(管 啓次郎)講談社現代新書
野生哲学
管 啓次郎
講談社現代新書
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「大地の神聖さ、アメリカ・インディアンにとって土地とは何なのか、動物や植物とは何か、動物を真似ること、動物の教え、太陽とは何か……これも、先ほどの縄文時代や、宇宙人の視点と重なりますが、太古の人間がどう暮らしていたか、どんな思想を持っていたか、ということへの興味です。そこに、私たちが手放してきた真理が隠されているのではないかと。巻末には、ナバホ族の創世神話が漫画で掲載されています。楽しく深く学べそうです」
◎初見健一『子どもの遊び黄金時代 70年代の外遊び・家遊び・教室遊び』(八四〇円・光文社新書)

「私は一九七九年生まれなので、どの遊びもとても懐かしいですね。色鬼、どろけい、ボール遊び、缶けりもよくやりました。フルーツバスケットなどの室内遊び、鉛筆クネクネ、ハンカチで眼鏡を作ったり、消しゴムかすをつなげて蛇を作るだけの他愛ない遊び。ハッピーアイスクリーム!などの言葉遊びもありましたね。70年代が黄金時代、ということですが、今の子はもう、こういう遊びをしないのかな。河出文庫の『エドウィン・マルハウス』を読んで、子ども時代にもう一回帰りたい、と感じたことも、この本を選んだのに影響している気がします。子どもの頃の記憶が薄れていくのが怖くて、遊びの思い出と遊び方が詳細に書かれているこの本を読み直して、覚えておきたいです。たった一つの遊びから、クラスの男子が言ったこととか、その日の空気とか、記憶は芋づる式に思い出されてきますよね」
◎池上彰『おとなの教養 私たちはどこから来て、どこへ行くのか?』(七八〇円・NHK出版新書)

「超ロング&ベストセラーですが、自分は興味が偏っていて、きちんとした教養を持ち合わせていない、という自覚がありまして。あとがきに、〈宇宙の始まりから現代まで〉とあります。こんなに簡単に教養を手に入れようなんて虫がいいかもしれませんが、これをきっかけに事実を知った上で、物を考えていきたいんです。教科書に○○年に○○の戦いがおこり、差別は撤廃された、などと書かれていても、大人になって世間をみたら全く解決していなかった、そういうことがありますよね。教科書的な知識ではなく事実を知らなければいけない、と思います。西加奈子さんの新刊『i』の主人公が、世の中の事件や死者を一つ一つ数える姿を見て、私も世界で起きていること、今まで起きてきたことに、もっと目を向けたい。歴史の流れを知った上で、現在起っていることに対しても、意見を述べられるようになりたいと思いました。きちんと学ぶことを怠ってきたように思うので、学びなおしたいと、そのきっかけの一冊に選びました」

*今すぐに得たい知識と、以前から興味があってより深く探りたい知識、村田さんの頭の中を覗き見たような選書だった。新書を選ぶひとときはどうでしたか?

「とても楽しかったです。変なたとえですが、新書の棚は薬局に似ている気がします。水虫をすぐに治したいから、水虫の薬を買うように、英語を学びたいからすぐ効く新書を、という処方箋のような。一方で、中公新書や冨山房百科文庫など、キャッチーではないけれど、私という人間を支えてくれる常備薬のようなものも必要ですよね。新書にはビジネスマンが社会を生き抜くための、ビジネス書や実用書が多い印象だったんです。でも熊楠や、ロマン派文学や、SF論や、カクテルや……いろいろな人の、様々な好奇心を満たすものなのだと。こんなにも自分の今の好奇心にしっくりくる本に出会えるなんてうれしかった。
資料用の本は、ネットで買うことがありますが、普段は書店に出かけることが多いです。手触りや匂い、さらっとめくった一文に、読んでいないけど、もう好きだ、というような本ってありますよね。その直感は外れないんです。でもネットではそういう勘は働かなくて。本屋に行くと、後ろに予定があってもつい買い過ぎて、重たい紙袋を抱え続けるようなことも、しばしばあります(笑)。

二〇一六年は、バイトをしながら『コンビニ人間』を書いて掲載されて受賞となって、結局『コンビニ人間』のことばかり考えていた一年でした。次の作品のテーマは今のところ、少女の性愛なのですが、試行錯誤を繰り返しているので、全部捨てるかもしれません。『しろいろの街の、その骨の体温の』のような書き方を目指していて、さらに内容がグロテスクなので、『消滅世界』のように冗談めかして読めない分、気持ち悪いかもしれません(笑)。今日もこの後、どこかの喫茶店で書こうと思っています」
2017年1月6日 新聞掲載(第3171号)
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