2016年回顧 韓国 日本での受容拡大の試みは今年も 来年の韓国と韓国文学の動きに目が離せない|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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文芸
2016年12月23日

2016年回顧 韓国
日本での受容拡大の試みは今年も
来年の韓国と韓国文学の動きに目が離せない

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先日、パク・クネ大統領の退陣を求める100万人規模の集会で揺れるソウルを訪問してきたが、その際集会の行われている光化門のすぐ隣にある大型書店の教保文庫に人波をかきわけて行った。印象深かったのは日本文学のコーナーは元々充実していたのだが、『夏目漱石長編小説全集』が今年『こころ』、『明暗』などの4冊が刊行されて14冊が完結していたことだった。美しい装丁の本で一般読者にもおそらく受け入れられそうな本だった。それだけでなく日本文学コーナーには『太宰治全集』、『宮沢賢治全集』などもここ数年で出揃っており、韓国での日本文学受容の幅広さを伺わせるものだった。それに比べると日本での韓国文学の受容は遅々としたもので、ここ10年ほどでだいぶ状況は好転したとは言うもののまだまだ一般読者の市民権を得たとは言い難い。いつになればこのような非対称的な関係は解消されることだろうか。まだまだ道遠しという感をソウルの書店で持ったことだった。

ただ、そのような状況を突破しようという試みは今年も続けられている。例えば毎年意欲的に現代の韓国小説を刊行しているCUONから、今年は朴景利の大河小説『完全版 土地』の1巻(吉川凪訳)、2巻(清水知佐子訳)が発行された。全20巻になる大河小説の翻訳で、偉業とも労作とも言うべきだろう。朝鮮王朝末期の1887年から1945年の日本の敗戦と解放に至るまでの近代の朝鮮の歴史を両班だった崔氏一族の家族史を中心に300人にも及ぶ登場人物を通して描いた一大叙事詩である。また、CUONからはキム・ヨンス『ワンダーボーイ』(きむふな訳)、ハン・ガン『少年が来る』(井出俊作訳)が出ている。いずれも現代韓国文学を代表する作家の作品で、特にハン・ガンは今年イギリスのマン・ブッカー賞を『菜食主義者』で受賞し、大きな話題となった作家である。『菜食主義者』も同じくCUONから新しい韓国の文学シリーズの1冊として2011年に出ている。

近代文学の作品としては李泰俊の『思想の月夜 ほか五篇』(〓凡社、朝鮮近代文学選集7、熊木勉訳)が出ている。また、Kindle版で玄鎮健の『無影塔』が出ている。いずれも韓国の近代文学を代表する作家の古典的作品であり、日本でも広く読まれてほしい作品の翻訳である。 

他に今年の翻訳としては、金仁淑『アンニョン、エレナ』(書肆侃侃房、Woman’sBest韓国女性文学シリーズ1、和田景子訳)、鄭泳文『ある作為の世界』(書肆侃侃房、奇廷修訳)、千雲寧『生姜(センガン)』(新幹社、橋本智保訳)などの最近の小説の翻訳が出ている。また、文貞姫の詩集『今、バラを摘め』(韓国現代詩人シリーズ4、韓成禮訳)が思潮社から刊行されている。

昨年末の日韓での慰安婦問題の政治的「解決」によって、慰安婦問題をめぐる書籍も山口智美他『海を渡る「慰安婦」問題――右派の「歴史戦」を問う』(岩波書店)など多く出ているがここでの範囲を超えてしまうので割愛する。

年末にパク・クネ大統領の弾劾案が国会で可決され、来年の韓国はどう動くことになるだろうか。来年の韓国と韓国文学の動きからも当分目が離せないことになりそうである。
2016年12月23日 新聞掲載(第3170号)
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