2016年回顧 ラテンアメリカ 『テラ・ノストラ』が今年の筆頭 フエンテスが文学的想像力を駆使した大作|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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文芸
2016年12月23日

2016年回顧 ラテンアメリカ
『テラ・ノストラ』が今年の筆頭 フエンテスが文学的想像力を駆使した大作

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キューバのフィデル・カストロ死去のニュースは日本でも先月末に大きく報じられたが、一九六〇年代に起きた世界的なラテンアメリカ文学の〈ブーム〉も、まさにキューバ革命の衝撃が生み出したものに他ならなかった。
その中心的作家の一人で四年前に物故したメキシコのカルロス・フエンテスの代表作『テラ・ノストラ』(本田誠二訳、水声社)の邦訳刊行は今年の収穫の筆頭に挙げられる。メキシコの歴史を旧世界、新世界、別世界の三つの視点から、文学的想像力を縦横に駆使して描き出した畢生の大作で、上下二段組みで千ページを超す翻訳を粘り強く完遂した訳者の労に敬意を表したい。

劇作家として有名なアリエル・ドルフマンの『南に向かい、北を求めて』(飯島みどり訳、岩波書店)は、「チリ・クーデタを死にそこなった作家の物語」という副題が示す通り、一九七三年九月十一日に起きたクーデタでの体験を、そこに至る半生と共に語った手記である。トランプ新大統領の下で米国とラテンアメリカとの関係が大きく変わろうとしている今、本書が翻訳された意義は一層深まったといえる。同じチリの九・一一によって祖国を離れることになったロベルト・ボラーニョの『第三帝国』(柳原孝敦訳)も、白水社のボラーニョ・コレクションの六巻目として刊行された。彼の遺稿から発見された長篇で、そこには五十歳で早世した作者の、死を予感しているかのような気配が感じられる。

〈ブーム〉世代で唯一八十歳の今も旺盛な執筆活動を続けているマリオ・バルガス=ジョサの『水を得た魚』(寺尾隆吉訳、水声社)は一九九三年に刊行された彼の自伝である。そこでは、九〇年の大統領選挙に最有力候補として出馬しながら、まったく無名の日系二世アルベルト・フジモリによもやの敗北を喫するまでの、政治に翻弄された数年間が回想されているが、彼の小説の読者にとってはむしろ、幼少期から大学を卒業するまでを語った章が、彼の初期の長篇小説と結びついて一層興味深い。『セサル・バジェホ全詩集』(松本健二訳、現代企画室)は、同じペルー出身で二十世紀のラテンアメリカ詩を代表する前衛詩人に親しむことを可能にしてくれた貴重な一冊だ。一方『ペルーの異端審問』(八重樫克彦・由貴子訳、新評論)はポスト・ブーム世代のフェルナンド・イワサキによる短篇集で、本業の歴史研究のため古文書館で収集した資料の副産物として書かれた物語からは、アメリカ大陸征服の一翼を担ったカトリック教会の思いもかけない一面が浮かび上がってくる。

コロンビアのフアン・ガブリエル・バスケスの長篇小説『コスタグアナ秘史』(久野量一訳、水声社)と『物が落ちる音』(柳原孝敦訳、松籟社)も今年相次いで翻訳出版された。同胞であるガルシア=マルケスの『百年の孤独』に刺激を受けて作家の道に入った世代で、今後の活躍が期待される。そのガルシア=マルケスの『族長の秋』とほぼ同時期に発表されたキューバのアレホ・カルペンティエールによる独裁者小説『方法異説』(寺尾隆吉訳、水声社)も先頃書店に並んだ。魔術的リアリズムを語る上でも避けては通れない作家の長篇が、これですべて日本語で読めるようになった。ここ数年精力的に翻訳活動を続けている寺尾隆吉による『ラテンアメリカ文学入門』(中公新書)は、十九世紀から〈ブーム〉を経てボラーニョに至るまでを解説した内容で、コンパクトながら情報量は多く、〈ブーム〉を代表する作家たちの生身の姿が語られているという点で、読み物としても楽しめる。

この記事の中でご紹介した本
テラ・ノストラ/水声社
テラ・ノストラ
著 者:カルロス・フエンテス
翻 訳:本田 誠二
出版社:水声社
以下のオンライン書店でご購入できます
2016年12月23日 新聞掲載(第3170号)
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