2016年回顧 児童文学 トランスジェンダーを受け止めること、日常を丁寧に描く本|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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文芸
2016年12月23日

2016年回顧 児童文学
トランスジェンダーを受け止めること、日常を丁寧に描く本

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『ジョージと秘密のメリッサ』(アレックス・ジーノ:作 島村浩子:訳 偕成社)。十歳のジョージが『シャーロットのおくりもの』の芝居で演じたいのは雄ブタのウィルバーではなく雌クモのシャーロット。ジョージの心の中にはメリッサという女の子がいます。というかメリッサなのに体はジョージなのです。ジョージは親友のケリーにシャーロットをやりたいと打ち明けます。彼女は気にしません。ただし、男の子が女の子の役をやってもいいという意味で。母親も兄もケリーも、ジョージはゲイだと思っていて、それはOKなのです。つまり、ジョージは自分がゲイではなくトランスジェンダーであることをいかにして受け入れてもらうかが、物語を動かしています。『十一月のマーブル』(戸森しるこ 講談社)にも主人公の友人レイが、女の子の体を持った男の子として描かれています。周りが自分を受け入れてくれるかは重要な問題ではありますが、二作品とも周りに理解者はいて、敷居はそれほど高く設定されてはいません。書き方が甘いということではなく、克服すべき問題は本人たちではなく周りが抱えていて、あなたが変わればいいだけだと、さりげなく伝えているのです。

『飛び込み台の女王』(マルティナ・ヴィルトナー:作 森川弘子:訳 岩波書店)は、飛び込み選手である二人の少女、実力から容姿まで圧倒的なカルラと、自分は凡庸だと思っているナディシュダの物語ですが、競技の技量を上げるための切磋琢磨だとか、ライバルに戦い勝ち抜くための努力だとかではなく、毎日の気分や、息苦しさを丁寧に描いています。毎日が、ただ毎日であるだけで緊張する、その空気を描いているとでもいいましょうか。

『がれきのなかの小鳥』(カーリ・ビッセルス:作 野坂悦子:訳 松野春野:絵 ぶんけい)もまた日常を丁寧に描いています。ただし、ユダヤ人である自分を隠してオランダでかくまわれている少女の。大きなドラマはなく、あの時の日々が描かれていく物語は、「戦争」の顔をとてもリアルに見せてくれています。戦争の描き方は色々ありますが、『ミスターオレンジ』(トゥルース・マティ:作 野坂悦子:訳 平澤朋子:絵 朔北社)では戦場ではなく兵士を送り出した家族を描きます。一九四三年。ニューヨークですから空爆などの被害はありません。志願兵の兄がいるライナス。家の手伝いでオレンジを運んだお客はヨーロッパから亡命してきた絵描き。兄は戦場に行ったのに……。戦争はヒーローが戦って悪をやっつけるものではないとわかり始めたライナスは、想像より現実が大事なんだと思うようになりますが、絵描きは想像の力を語ります。想像の及ばない戦争にどう想像力を伸ばしていくか。そして想像力で戦争とどう対峙できるのか? 想像力と言えば『ぼくが消えないうちに』(A・F・ハロルド:作 エミリー・グラヴェット:絵 こだまともこ:訳 ポプラ社)もありました。アマンダがタンスの中で発見した少年は、信じる人にしか見えない存在です。逆に言えば、忘れられれば消えるしかありません。マンイーターならぬイマジネーションイーターが現れ、果たして? という物語。

想像力が枯渇し、寛容性も失われつつある現在であるからこそ、子どもの本はますますそうした物語を生み出しています。

他に印象に残ったのは、『空飛ぶリスとひねくれ屋のフローラ』(ケイト・ディカミロ:作 K・G・キャンベル:絵 斎藤倫子:訳 徳間書店)、『セカイの空がみえるまち』(工藤純子 講談社)、『エレナーとパーク』(レインボー・ローウェル:作 三辺律子:訳 辰巳出版)、『落語少年サダキチ』(田中啓文:作 朝倉世界一:画 福音館書店)。

絵本では、『こわい、こわい、こわい』(ラフィク・シャミ:文 カトリーン・シェーラー:絵 那須田淳:訳 西村書店)、『人くい鬼』(こみねゆら:文と絵 あすなろ書房)、『こびん』(松田奈那子 風濤社)、『あおのじかん』(イザベル・シムレール:文・絵 石津ちひろ:訳 岩波書店)、『船を見にいく』(アントニオ・コック:作 ルーカ・カインミ:絵 なかのじゅんこ:訳 きじとら出版)、『ちっちゃいさん』(イソール:作 宇野和美:訳 講談社)、『つちはんみょう』(舘野鴻 偕成社)。
2016年12月23日 新聞掲載(第3170号)
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