2016年回顧 短歌 良い歌集が何冊も出た一年 高度な結実、清新な感覚、試行錯誤|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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文芸
2016年12月23日

2016年回顧 短歌
良い歌集が何冊も出た一年 高度な結実、清新な感覚、試行錯誤

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良い歌集が何冊も出た一年だった。現代歌人協会賞は吉田隼人歌集『忘却のための試論』(書肆侃侃房)。著者はフランス文学専攻の大学院生。文学としての短歌という理念が伝わってくる高度な結実を果たした一巻。

・まなつあさぶろあがりてくれば曙光さすさなかはだかの感傷機械。
・うたびとはすでに彼岸の人にして草の葉ぬらす目にみえぬ雨

日本歌人クラブ賞と寺山修司短歌賞のダブル受賞にかがやいたのが島田幸典歌集『駅程』(砂子屋書房刊)。短歌型式の機能と生理を熟知して、渋いレトリックを駆使し尽くしたクロウト受けする歌集。岡井隆がこの歌集の全歌鑑賞をしたいと言ったとのことだが、それも諾えるみごとな一巻。
・牛乳車路肩にあれば傾きしままにミルクは平ぎにけり
・自販機の灯ともし頃を冬ちかき町は雨降るままに暮れたり

加藤治郎と東直子のプロデュースで始まった書肆侃侃房の新鋭短歌シリーズからは、今年もすぐれた歌集が続出した。


井上法子歌集『永遠でないほうの火』。
・月を洗えば月のにおいにさいなまれ夏のすべての雨うつくしい

虫竹一俊歌集『羽虫群』。
・職歴に空白はあり空白を縮めて書けばいなくなるひと

中山俊一歌集『水銀飛行』。
・水銀の避け方だった飛行機よりひこうき雲が好きだと云われ

清新な感覚を見せる歌集が多かったがこの三冊に代表させておきたい。

石井辰彦の九冊目の歌集『逸げて來る羔羊』(書肆山田)は朗読用テクストとして発表された十首一連の連作六十篇を集成した一巻。
・太陽を(直に)凝視めよ! 凡俗の風に紛れて生きるにもせよ

一首を引用してもあまり意味はない。無冠のまま独自の道を歩み続ける歌人だが、こういう歌人こそ迢空賞を受けるべきではないかといつも思う。

北海道新聞短歌賞を受賞した阿部久美歌集『ゆき、泥の舟にふる』(六花書林)もおとなの感性に訴える希有な一巻。
・わがうなじそびらいさらひひかがみにわが向き合えぬただ一生なり

もう一冊、真野少歌集『unknown』(現代短歌社)も第一歌集ながら老練な手管を見せてくれた。
・焼きあげて型より出だす鯛焼の余れる皮は鋏もて切る

斉藤斎藤の十二年ぶりの第二歌集『人の道、死ぬと町』(短歌研究社)も話題の歌集。短歌の表現領域を拡大すべく、試行錯誤がなされている。

歌書では佐藤佐太郎短歌賞を受賞した大辻隆弘の『近代短歌の範型』(六花書林)と岡嶋憲治の遺著となった『評伝春日井建』(短歌研究社)、現代詩と現代短歌を同じ視点で読み解く岡井隆の『詩の点滅 詩と短歌のあひだ』(KADOKAWA)等が好著。

2016年12月23日 新聞掲載(第3170号)
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