2016年回顧 SF VR/AR元年、AIの進歩 SFのしなやかな想像力が試される|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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文芸
2016年12月23日

2016年回顧 SF
VR/AR元年、AIの進歩 SFのしなやかな想像力が試される

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仮想現実(VR)や拡張現実(AR)を使ったゲームが話題となり、「VR/AR元年」などと言われた二〇一六年。さらに囲碁プログラム「アルファ碁」が世界トップクラスの囲碁棋士を破るなど、人工知能(AI)の進歩も話題を呼び、出版界でも、AIを取り上げたノンフィクションが多数刊行された。テクノロジーの進歩により、かつてはSFでしかなかったことが次々と現実になっていく時代だからこそ、SFのしなやかな想像力もまた試されているといっていいだろう。

人工知能学会が企画した『AIと人類は共存できるか? 人工知能SFアンソロジー』(早川書房)は、藤井太洋、長谷敏司ら五人の俊英作家が人工知能をテーマに書き下ろした小説に、それに呼応した内容の人工知能研究者のコラムを併載したアンソロジー。「倫理」「社会」「政治」「信仰」「芸術」という、五つの側面から人工知能に光を当てている。人間以外の知性と人間はどう向き合うべきか。今まさに発展しつつある分野の熱気が感じられる作品集だ。

ビビビ・ビ・バップ(奥泉 光)講談社
ビビビ・ビ・バップ
奥泉 光
講談社
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奥泉光『ビビビ・ビ・バップ』(講談社)は、AIとVR技術が世界中に普及した二十一世紀末の物語。ジャズ・ピアニストのフォギーは世界的ロボット研究者の山萩社長から自分の葬式でピアノを弾いてほしいと依頼されたことがきっかけで、人間とAI、仮想と現実が入り乱れる世界規模の狂騒的な事件に巻き込まれていく。リズム感あふれる独特の文体も心地よい。

山田宗樹『代体』(KADOKAWA)もまた、新しいテクノロジーを題材にした作品である。人間の意識を「代体」と呼ばれる器に一時的に転送する技術が確立し、ビジネスとして定着している近未来。一見、SFミステリのように始まった物語は、意外な方向に転がっていく。一つのアイディアが加速度的にエスカレートし、最後には思いもよらない壮大な結末へと導かれていくという、まさにSFを読む醍醐味を体験させてくれる。

一方、西條奈加『刑罰0号』(徳間書店)では、罪を犯した者に被害者の記憶を追体験させる機械という架空のテクノロジーが描かれる。死刑に代わる刑として開発されたこのシステムは、被験者の精神破綻により失敗。しかしその後も密かに研究は続けられ、さらには思いもよらぬ用途に用いられるようになり、世界は大きく変容していく。テクノロジーがもたらす社会の変化を描いた物語である。

『カムパネルラ』(東京創元社)は、大ベテラン山田正紀の野心的な文芸SF。「美しい日本」をお題目に、宮沢賢治を利用して国家が思想教育をしている並行世界日本の少年が、賢治の存命する花巻、さらには「銀河鉄道の夜」の世界へと迷い込み、カムパネルラ殺しの容疑をかけられる。賢治が死ぬ直前まで改稿を続けていた「銀河鉄道の夜」の、第三稿から第四稿への改稿を主題に、国家主義と賢治の危うい関係にまで踏み込んだ、アクロバティックな幻想SF長篇である。

続いて海外作品。今年最大の話題作は、ピーター・トライアス『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』(早川書房)だろう。舞台は第二次大戦に敗北し、大日本帝国の統治下にあるアメリカ。時代は一九八八年ながら、スマートフォンが当たり前に普及し、巨大ロボまで闊歩している。一見色物めいた設定だが、物語の骨格はしっかりしたディストピア小説である。日本のアニメやゲームに親しんで育ったアメリカ人作家が異形の日本を描いた、P・K・ディック『高い城の男』への返歌のような物語だ。

フィンランド作家エンミ・イタランタによる『水の継承者ノリア』(西村書店)にも、日本的な要素が登場する。主人公は茶人の娘なのだ。文明が崩壊し、水が貴重な資源になった時代、残された泉を茶人は密かに守ってきた。しかし、やがて軍が動き出し、主人公も追い詰められていく。派手な道具立ての『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』とは対照的に淡々とした作品だが、物語に漂う閉塞感は共通している。

ヴィンテージSFの短篇集に光が当てられたのも今年の傾向のひとつ。『J・G・バラード短編全集』(東京創元社)、コードウェイナー・スミス『人類補完機構全短篇』(ハヤカワ文庫SF)、『ジャック・ヴァンス・トレジャリー』(国書刊行会)といった短篇の名手たちの作品集の刊行が始まったほか、ハーラン・エリスン『死の鳥』(ハヤカワ文庫SF)、ケイト・ウィルヘルム『翼のジェニー』(書苑新社)などオールドファンには懐かしく、そして今でも新しく読める短篇集が相次いで刊行された。
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2016年12月23日 新聞掲載(第3170号)
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この記事の中でご紹介した本
ビビビ・ビ・バップ/講談社
ビビビ・ビ・バップ
著 者:奥泉 光
出版社:講談社
以下のオンライン書店でご購入できます