2016年回顧 ミステリー 短編集が記憶に残る一年 海外作品ではシリーズ、続編に力作|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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文芸
2016年12月23日

2016年回顧 ミステリー
短編集が記憶に残る一年
海外作品ではシリーズ、続編に力作

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短編集が記憶に残る一年だった。

二〇一五年暮れの、米澤穂信『真実の一〇メートル手前』(東京創元社)。記者・太刀洗万智が遭遇する六つの事件とその解決が描かれる。主人公の成長の物語としても楽しめる作品で、『さよなら妖精』『王とサーカス』とあわせて読めば、さらに味わい深い。一六年十一月には、〈古典部〉シリーズの『いまさら翼といわれても』(KADOKAWA)も刊行された。

宮内悠介『彼女がエスパーだったころ』(講談社)は、疑似科学をテーマにした連作短編集。SFに分類されることも多い本書だが、結末の鮮やかさはミステリ読者向けでもある。

若竹七海『静かな炎天』(文春文庫)は、書店員兼探偵のヒロインの六ヶ月を描いた短編集。主人公のシニカルな視点と不運な体質が忘れがたい。

芦沢央『許されようとは思いません』(新潮社)は、人の暗部をミステリの意外性に結びつけた短編集。後味の悪さを堪能できる。

深町秋生『バッドカンパニー』(集英社文庫)は、危険な仕事ばかりを引き受ける、物騒な人材派遣会社の物語。軽妙なアクションが全七編。また、アクションは控えめながら、個性の強い悪徳警官たちを描いた連作短編集『卑怯者の流儀』(徳間書店)も読ませる。

長編では、竹本健治の力作『涙香迷宮』(講談社)が印象深かった。精緻に作られた「いろは歌」の暗号に驚かされる。日本語を限界まで駆使した小説と言っていいだろう。

七河迦南『わたしの隣の王国』(新潮社)は、著者四年ぶりの長編。テーマパークで起きる事件と、ファンタジックな世界での冒険とを重ね合わせる、野心に満ちた作品だ。

とびっきりの異色作として、法月綸太郎『挑戦者たち』(新潮社)をあげておこう。謎解きミステリの「読者への挑戦状」を99の文体でみせる――という趣向だが、単なる文体模写にとどまらず、ミステリに関する考察へと踏み込んでいく。すさまじくひねくれたミステリ評論ないしガイドブックとも言える。

海外作品では、シリーズ物や続編に力作が多く目立っていた。
ドン・ウィンズロウの『ザ・カルテル』(角川文庫)は、メキシコの麻薬戦争を描いた『犬の力』の続編。激情に満ちた高密度の物語が展開される。

マーク・グリーニー『暗殺者の反撃』(ハヤカワ文庫NV)は、CIAに追われる暗殺者の冒険の節目となる作品。アメリカに帰国し、自らを窮地に追い込んだ敵と対決する。

フィリップ・カー『死者は語らずとも』(PHP文芸文庫)は、ナチ政権下のベルリンでの謀略と、真相が明かされる革命前夜のキューバとを結ぶ壮大な物語だ。

ジェイムズ・エルロイ『背信の都』(文藝春秋)は、真珠湾攻撃によって日系人が排斥されるLAでの、日系人捜査官の苦闘を描く物語。作者がこれまで描いてきた、暗黒のロス市警のサーガの前日談に当たる。

単独作品も負けていない。この一年で最も鮮烈な印象を残したのは、チャールズ・ウィルフォードの『拾った女』(扶桑社文庫)だ。夜の街で出会った、酒に溺れる男女。その転落を描いたノワール小説……と思っていたら、結末近くに強烈な一言が。思わず最初に戻って読み返してしまう。洗練された仕掛けで読者を幻惑する、企みに満ちた作品だ。

アンデシュ・ルースルンド/ステファン・トゥンベリ『熊と踊れ』(ハヤカワ・ミステリ文庫)は、スウェーデンで実際に起きた事件を下敷きにした犯罪小説。銀行強盗の大胆な犯行と、追う警察の動きを、スピーディな場面転換で描く。暴力の連鎖がもたらす重さも効いている。

サラ・ウォーターズ『黄昏の彼女たち』(創元推理文庫)は、第一次大戦後の英国での、女性どうしの恋愛を描いた物語。濃密な心理描写と、中盤以降の息詰まる展開が魅力だ。

レストランの一室での心理戦を描いた、オレン・スタインハウアーの『裏切りの晩餐』(岩波書店)は、地味ながらも緊張に満ちたスパイ小説としておすすめしたい。

ジョルディ・ヨブレギャット『ヴェサリウスの秘密』(集英社文庫)は、十九世紀末、万博開催を控えたバルセロナを舞台に、十六世紀の医師が残した書物の謎、都市の地下空間の冒険、有力者たちの陰謀を絡めた物語。豪華絢爛な仕上がりを楽しめる一冊だ。

2016年12月23日 新聞掲載(第3170号)
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