2016年回顧 時代小説 混迷の時代の生き方を問う 先の読めない時代の若者の苦悩を活写|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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文芸
2016年12月23日

2016年回顧 時代小説
混迷の時代の生き方を問う
先の読めない時代の若者の苦悩を活写

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二〇一六年も、格差の広がりと一度失敗するとはい上がるのが難しい状況が社会の閉塞感を強めていた。室町中期を現代と重ねた垣根涼介『室町無頼』(新潮社)は、実在した骨皮道賢、蓮田兵衛の薫陶を受けて成長する才蔵を通して、新たな一歩を踏み出すことの大切さを描いていた。

敗者の視点で歴史を見る吉川永青『治部の礎』(講談社)、『賤ケ岳の鬼』(中央公論新社)、『裏関ヶ原』(講談社)。生涯現役を貫いた老将が主人公の近衛龍春『九十三歳の関ヶ原』(新潮社)。小早川秀秋を再評価した大塚卓嗣『鬼手』(光文社)。川中島合戦に新解釈で迫る伊東潤『吹けよ風呼べよ嵐』(祥伝社)。中間管理職的な長束正家が印象深い岩井三四二『天下を計る』(PHP研究所)。一向衆と守護の対立が深まる加賀で、したたかに生きる国人を描く北方謙三『魂の沃野』(中央公論新社)。信長の正室・帰蝶を軸に本能寺の変に至る歴史を読み替える宮本昌孝『ドナ・ビボラの爪』(中央公論新社)。六人の武将の死までの二四時間をダークな物語にした木下昌輝の連作集『戦国24時』(光文社)。戦国末期の女性に焦点を当てた諸田玲子『梅もどき』(KAODOKAWA)。戦国ものにして人情ものの岡本さとる『花のこみち』(光文社)。苦境に耐え逆転の機会をうかがう島津義弘を描く天野純希『衝天の剣』『回天の剣』(共に角川春樹事務所)などの戦国ものも、混迷の時代の生き方を問い掛けていた。

今年の大河ドラマが『真田丸』だったこともあり、真田ものの小説も多かった。大坂の陣最後の二日を描く松永弘高『戦旗』(朝日新聞出版)。名刀を軸に真田家を捉えた東郷隆『真田名刀伝』(角川春樹事務所)。真田家と同じ武田の旧臣・御宿勘兵衛を発掘した簑輪諒『くせものの譜』(学研プラス)。信繁の父・昌幸を描く海道龍一朗『我、六道を懼れず【立国篇】』(PHP研究所)。後藤又兵衛を中心にした大坂の陣もの矢野隆『生きる故』(PHP研究所)。そして幡大介〈真田合戦記〉シリーズ(徳間書店)は、特に完成度が高い。

幕末維新ものでは、河上彦斎を信念を貫いた人とした葉室麟『神剣』(角川春樹事務所)、新選組ものの小松エメル『総司の夢』(講談社)、山本音也『本懐に候』(小学館)を始め、天野純希『幕末! 疾風伝』(中央公論新社)、犬飼六岐『青藍の峠』(集英社)などが、先の読めない時代に惑う若者の苦悩を活写。西村健『光陰の刃』(講談社)、中路啓太『ロンドン狂瀾』(光文社)、木内昇『光炎の人』(KADOKAWA)、須賀しのぶ『また、桜の国で』(祥伝社)など、近現代史を題材に現代にも通じる社会問題に迫った作品も多かった。

藤原不比等を描く馳星周の初の歴史小説『比ぶ者なき』(中央公論新社)、澤田瞳子の短編集『秋萩の散る』(徳間書店)などの古代史ものも人気で、これらは日本の原点からこの国の形とは何かに迫っていた。

江戸ものでは、「プロジェクトX」を思わせる門井慶喜『家康、江戸を建てる』(祥伝社)と伊東潤『江戸を造った男』(朝日新聞出版)のほか、北斎の娘を描いた朝井まかて『眩』(新潮社)、河治和香『遊戯神通 伊東若冲』(小学館)、料亭・八百善を作った男の一代記、松井今朝子『料理通異聞』(幻冬舎)、小堀遠州に着目した葉室麟『孤篷のひと』(KADOKAWA)など技術、芸術に着目した作品が目についた。若者を時代小説に引込んだ畠中恵〈しゃばけ〉シリーズは、一五周年記念作『おおあたり』(新潮社)が刊行された。谷津矢車『しゃらくせえ』(幻冬舎)、田牧大和『彩は匂へど』(光文社)、梶よう子『葵の月』(KADOKAWA)、青山文平『半席』(新潮社)、宮部みゆき『三鬼』(日本経済新聞出版社)、京極夏彦『書楼弔堂 炎昼』(集英社)は、ミステリーやホラーの手法で現代とも共通する心の闇、社会の闇に切り込んでいる。市井人情ものでは、宇江佐真理の遺作『うめ婆行状記』(朝日新聞出版)、杉本章子の遺作『カナリア恋唄』(講談社)、西條奈加『九十九藤』(集英社)、中島要『うきよ櫛』(双葉社)が印象に残った。

新人賞を獲得した西山ガラシャ『公方様のお通り抜け』(日本経済新聞出版社)、橘沙羅『横濱つんてんらいら』(角川春樹事務所)、木村忠啓『慶応三年の水練侍』(朝日新聞出版)、初の時代小説を刊行した大山淳子『牛姫の嫁入り』(KADOKAWA)、坂井希久子『ほかほか蕗ご飯 居酒屋ぜんや』(角川春樹事務所)などは、今後の活躍が楽しみである。

今年は、北方謙三が〈大水滸伝〉シリーズ(集英社)を完結させる一方、浅田次郎〈蒼穹の昴〉シリーズの最新作『天子蒙塵』(講談社)、安部龍太郎の大作『家康』(幻冬舎)の刊行が始まった。二〇一七年も、歴史時代小説は目が離せないジャンルになりそうだ。

2016年12月23日 新聞掲載(第3170号)
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