2016年回顧 美術 新しい視点・方法論の意欲作 戦後美術から現代美術まで新しい時代を扱う著作が目を引いた|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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文芸
2016年12月23日

2016年回顧 美術
新しい視点・方法論の意欲作 戦後美術から現代美術まで新しい時代を扱う著作が目を引いた

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今年は、新しい視点・方法論の意欲作や、二〇世紀の戦後美術から現代アートまで比較的新しい時代を扱った著作が目を引いた。

金沢百枝『ロマネスク美術革命』(新潮社)は、モダン・アートに通底する「かたちの自由」を求めたロマネスク美術を新しい視点で読み直す。建築の「枠組み」を(彫刻が)従うべき「法則」と見なす通説に異議を唱え、むしろ逆手にとって「活用すべき媒体」だと喝破する。

大久保恭子『アンリ・マティス『ジャズ』再考――芸術的書物における切り紙絵と文字のインタラクション』(三元社)は、切り紙絵とテクストの詳細な分析を通し、生成する「総合芸術作品」としての『ジャズ』を浮かび上がらせた貴重な労作。

平芳幸浩『マルセル・デュシャンとアメリカ――戦後アメリカ美術の進展とデュシャン受容の変遷』(ナカニシヤ出版)は、ネオ・ダダ、フルクサス、ポップ・アート、コンセプチュアル・アートの各々の文脈におけるデュシャン受容を分析することによって、とりわけ抽象表現主義との関係において構築されるこれらの多様なデュシャン「像」が、戦後アメリカ美術の「鏡」として機能している様を明らかにする。

池上裕子『越境と覇権――ロバート・ラウシェンバーグと戦後アメリカ美術の世界的台頭』(三元社、本紙書評[二〇一六年五月六日])は、一九六四年のカニングハムの世界ツアーの一環として、ラウシェンバーグが訪れた四都市(パリ、ヴェネツィア、ストックホルム、東京)に焦点を当て、戦後アメリカ美術の「覇権」と結びつく美術家の「越境」がもたらす、双方向的かつ非対称な力学をスリリングに活写した「世界美術史」の刺激的な著作。

池野絢子『アルテ・ポーヴェラ――戦後イタリアにおける芸術・生・政治』(慶應義塾大学出版会)は、一九六〇年代末のイタリアで起こった芸術運動「アルテ・ポーヴェラ(貧しい芸術)」を取り上げ、西洋近代文明への反省や「芸術と生の一致」をめぐって、制作と批評言説の間に生じた矛盾や齟齬も含めて、その複雑な様態を明らかにする。

クレア・ビショップ(大森俊克訳)『人工地獄――現代アートと観客の政治学』(フィルムアート社)は、一九九〇年代以降の現代アートに顕著な(観客の)「参加型アート」を論じるに当たり、参加における倫理の一面的な称揚を斥け、むしろ芸術と社会性の持続的な緊張関係に活路を見い出している。

また、西洋における日本美術の受容に関しても、新しい視点からの優れた著作が刊行された。粂和沙『美と大衆――ジャポニスムとイギリスの女性たち』(ブリュッケ)は、男性の著名芸術家やデザイナー、コレクターを対象としてきたジャポニスムの先行研究に対して、ヴィクトリア朝期のミドル・クラスの無名の女性消費者による受容を取り上げた点が画期的である。今井祐子『陶芸のジャポニスム』(名古屋大学出版会)は、蜷川式胤の陶器書『観古図説 陶器之部』が、米国人モースの研究やコレクションに影響を与える中で、西洋陶芸の造形上の変化も促した過程を綿密に裏づけた労作。これらに対し、安松みゆき『ナチス・ドイツと〈帝国〉日本美術――歴史から消された展覧会』(吉川弘文館)は、一九三九年にナチス政権下で開催された「伯林日本古美術展覧会」に着目し、従来の浮世絵・工芸より絵画・彫刻を軸とした日本美術史の構築と日独接近という政治が複雑に交錯する様を浮かび上がらせている。

浩瀚な大著である山梨俊夫『風景画考Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ』(ブリュッケ)は、自然との距離を意識した画家の眼を内包した風景画に「世界観の表われ」を見て取り、約五七〇点に及ぶ古今東西の風景画を瑞々しく記述しながら経巡る。

三浦雅士監修『ポストモダンを超えて――21世紀の芸術と社会を考える』(平凡社)も、古今東西の芸術を自在に横断し、今後の展望を考える上で示唆に富む。
2016年12月23日 新聞掲載(第3170号)
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