2016年回顧 音楽 根源的な問題を様々な角度から焦点を当てた論じた著作の数々|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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文芸
2016年12月23日

2016年回顧 音楽
根源的な問題を様々な角度から焦点を当てた論じた著作の数々

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降って沸いたボブ・ディランのノーベル賞授賞で、秋以降はすっかり彼一色に塗り潰されてしまった感のある音楽書だが、「音楽とは何か?」という根源的な問題を様々な角度から焦点を当てて論じた著作の数々について、取り上げてみたい。

『コンサートという文化装置』(宮本直美、岩波書店)は、19世紀における「クラシック音楽」の受容という近年盛んに論じられているテーマを基としながら、そこに大衆音楽すれすれ…あるいは大衆音楽そのものと化した?…オペラの変容を織り交ぜて新たな知見をもたらした。オペラの変容ということでは、『あゝ浅草オペラ』(小針侑起、えにし書房)も見落とせない。本書を貫くキーワード「インチキ歌劇」に象徴される浅草オペラならではの大衆に向けられた活気や猥雑さが、貴重な図版を通じて蘇る。

活気や猥雑さを描いたという点では、『地下音楽への招待』(剛田武、ロフトブックス)も必読だ。1970年代から80年代のアンダーグラウンド音楽事情、またそうしたジャンルを育んだ音楽を通じた交流の場が、当事者たちの手によって蘇る。そして、彼らの中に未だ続く内輪もめの実態も。そうした、日本の音楽界が(ジャンルを問わず)抱えている問題を外側からやんわりと突いてみせたのが、『パリの空の下《演歌》は流れる』(吉田進、アルファベータブックス)。著者がこれまで発表してきた様々なエッセイを集めたものだが、それらを通じて浮かび上がるのは、音楽が創られ育まれ…そしておそらくは内輪もめをも乗り越えて…定着して行く場の有り様。日本に生まれ育った彼だからこそ分かるパリの音楽の姿が、まざまざとした空気感とともに描かれる。

『ベル・エポックの音楽家たち』(フランソワ・ポルシル、安川智子訳、水声社)は、そのパリをも含め意外に日本で知られていない=日本の西洋音楽史の盲点であるフランス第三共和制下のフランスの音楽事情を詳説する。巻末に付された小事典も貴重な資料。『孤独な祝祭 佐々木忠次』(追分日出子 文藝春秋)は、日本のバレエ界に革命を起こし、海外の有名オペラハウスの招聘に情熱を燃やした1人の興行師の壮絶な生涯を描き出す。華々しい成功譚だけでなく、その非情さや、孤独な最後にまで迫ったノンフィクションとして、第二次世界大戦後の日本の音楽界の有様をも浮き彫りにした。こちらがクラシック音楽の話だとすれば、ポピュラー音楽の視点から現在の日本の音楽界の実情へ肉薄したのが『ヒットの崩壊』(柴那典、講談社現代新書)。重要なのは、かつて存在した「国民的ヒット曲」に価値を置くパラダイムを転換し、現在の状況にこそ可能性を見出そうとする姿勢なのかもしれない。

『誰が音楽をタダにした?』(スティーヴン・ウィット、関美和訳、早川書房)は、レコード業界という牙城を解体させた男たちの奮闘記。それは痛快なアメリカンドリームか、はたまた消費原理の中で徹底してしゃぶり尽くされてゆく音楽の実態か?

2016年12月23日 新聞掲載(第3170号)
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