2016年回顧 演劇 稀にみる当たり年にこの状況が来年も続くことを願う|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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文芸
2016年12月23日

2016年回顧 演劇
稀にみる当たり年にこの状況が来年も続くことを願う

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昨年末から今年にかけて、演劇関係の書籍は稀にみる当たり年となった。変わらない出版不況、もしくはそれが常態化しているなかで数多くの良書が出版されている。長谷川康夫『つかこうへい正伝1968-1982』(新潮社)は、近くにいたものにしか語れないつか像がある。ただし、絶頂期と措定された時までなので、晩年を含めて生涯を総括する必要はあるだろう。菅孝行編『佐野碩 人と仕事』(藤原書店)は、二次大戦期に日本から半ば亡命者としてソ連に行き、スターリン体制で放逐されて、最終的にメキシコ近代演劇の礎となった佐野碩についての評論を集めた。特にメキシコ側からの論は貴重だ。

また、ありふれた研究書ではなく、批評的でもある本がいくつもあった。内野儀『「J演劇」の場所』(東京大学出版)は、二〇〇〇年代の演劇の言説を形作った著者の評論を、本来の研究フィールドであるアメリカの舞台芸術からの視座を含めてまとめた。また、平田栄一朗『在と不在のパラドックス 日欧の現代演劇論』(三元社)は、舞台における、在ることとないことという二つの軸をめぐって、ドイツと日本の現代演劇を比較的に論じた。

ここ最近は演劇史に名を残す作家に真正面から取り組んだ本はなかなか見かけないが、沼野充義『チェーホフ 七分の絶望と三分の希望』(講談社)は、まさに王道だ。まだまだチェーホフという作家の面白さが語り尽くされていないことを教えてくれる。河出書房新社からは、昨年亡くなった現代演劇に同伴し続けた著者の記憶に残る舞台のエッセイ『こんな舞台を観てきた 扇田昭彦の日本現代演劇五〇年史』と、民藝で舞台化もされる青木笙子『「仕事クラブ」の女優たち』がある。悲惨な時代のなかで、アルバイトをして近代演劇を支えた女性たちの活動を照らした。また、晩成書房からは、関西の小劇場シーンと同伴する九鬼葉子『関西小劇場30年の熱闘』と、東日本大震災と演劇をモチーフにした内田洋一『危機と劇場』があった。

戯曲出版としては、樋口一葉をモデルにした永井愛『書く女』(而立書房)。夭折した関西の小劇場を代表した作家『深津篤史コレクション』(松本工房)と『山崎正和全戯曲』(河出書房新社)の三巻本がある。翻訳書では長きにわたって噂されていたキャサリン・ブリス・イートン著、谷川道子他編訳『メイエルホリドとブレヒトの演劇』(玉川大学出版部)の出版、戯曲ではベルナール=マリ・コルテス著、佐伯隆幸他訳『コルテス戯曲選3 黒人と犬どもの闘争』(れんが書房新社)がある。三冊目のコルテスの翻訳になるが、エクリチュールの中に埋もれる感覚は圧倒的だ。

現代の舞台芸術を支える重要な助成機関については、片山正夫『セゾン文化財団の挑戦 誕生から堤清二の死まで』(書籍工房早山)がある。常任理事という立場だが、類例のないユニークな活動がわかる。大笹吉雄他編『日本戯曲大事典』(白水社)も、近代から現代までの劇作家の事典であり、時間と労力のかかった価値あるものだ。この状況が来年も続くことを願う。
2016年12月23日 新聞掲載(第3170号)
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