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Forget-me-not
2017年1月13日

Forget-me-not➁

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出勤前、鏡に映る自身を見つめ続けるゲイ男娼のフェリックス。ⒸKeiji fujimoto

真っ白なシャツに包まれたまばゆいばかりに黒い肌の少年。将来の夢はパイロット。かつて空が好きだった男の部屋にはいつも少年時代の写真が飾られていた。

あの頃の夢は幻想となり、男の室内には衣服が散乱している。ゲイであることを偽る中で感じ続ける家族への後ろめたさ、恋人と過ごす淡き安らぎ、そして丸裸の時に表れる自己嫌悪という感情の連鎖の中に男はいる。

きっと僕たちは似た者同士の少数者だったのだろう。共に迷惑な人間であり、周囲の調和を乱す元凶だった。だからこそ僕たちは友人になり得たのだ。

窓の外が少しづつ深紫から青に変わっていく。また朝がやってきてしまったのか。

「そろそろ仕事に行かなくちゃ」

つぶやいた先に、男の表情は不自然に明るくなり、負の感情を包み隠す。視線が現実世界への焦点を合わせ、体は汚れたシャツを身にまとう。

開いたドアの外には、青すぎるケニアの空が広がっていた。

航空機がはるか遠く、雲の彼方を飛んでいく。男は階段を下り、乗り合いバスに乗り込んでいく。壁に貼られた写真の少年は、男の歩む現在をひとり見つめ続けていた。
2017年1月13日 新聞掲載(第3172号)
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