愛よりも愛に似てゐる感情がカエルの腹を裂かせ、咲かせた 吉田隼人『忘却のための試論』(2015)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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現代短歌むしめがね
2017年1月13日

愛よりも愛に似てゐる感情がカエルの腹を裂かせ、咲かせた 吉田隼人『忘却のための試論』(2015)

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歌の主人公はカエルの腹を裂いて、花びらのように赤く開かせている。カエルの腹を裂いたのは理科の実験とかではなく、個人的な趣味である。動物虐待ともいえる。この歌は二〇〇五年に静岡県で起きた、女子高生が母親に日々タリウムを盛り続けた毒殺未遂事件をモデルにした連作「小倫理学」に収められている。そして歌の詞書(解説文)には、容疑者の女子高生が書いていたとされるブログの一節が引かれている。「瓶詰め:僕の部屋の中には死体がたくさんあります。瓶詰めの死体達は何時も其処に居て、僕を見守ってくれています。腹腸を飛び出させた蛙達が、陽気に手を振っている姿は……(7月20日)」。

容疑者の少女はスピノザを引用するなどきわめて知性的で、その社会的逸脱がただの狂気であるとは言い切れないものを感じさせる。ましてや「中二病」という言葉なんかでは到底くくれない。作者はこの少女と同い年であり、だからこそどうにも捨て置くことのできない魅力を覚えたのだろう。同世代にしか共鳴できない時代の病理というのは確かにある。知的だからこそ生きづらい時代のあだ花のようなものとして、この美しい一首はまがまがしい毒殺未遂事件と併置させられうる。

現実に起こった犯罪をテーマとした短歌連作は少なくない。しかし事件に対する作者の強い思い入れと、その思い入れへの説得力、そして事件が象徴している現代性の表現。その全てがここまで詰まった作品は多くない。
2017年1月13日 新聞掲載(第3172号)
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