異端の英語教育史 / 加藤 洋介(開文社出版)「文化史」として捉える試み 英語教育の現状への道筋を丁寧に辿る|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2016年6月24日

「文化史」として捉える試み
英語教育の現状への道筋を丁寧に辿る

異端の英語教育史
出版社:開文社出版
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「異端の英語教育史」という、いささか刺激的なタイトルに心をくすぐられ、本書を手に取った。

目次に目をやると、「ベイシック・イングリッシュ(BE)」「優生学」「チャーチル『英語話者国民の歴史』」「ケンブリッジ英文学」「翻訳」など、標準的な英語教育史の文献にはなじみの薄い項目が並ぶ。著者は言う。「英語教育の理論と実践を通史的に解説」するという「磁場を離れ」、言語思想、歴史学、英文学、翻訳研究などの文献を取り込んだ「領域横断の視点に立って」英語教育の歴史をある種の「文化史」として捉えてみる試み、それが本書なのだと。つまり、表紙にさりげなく添えられた英語タイトルのanalter native approach(慣習に縛られないアプローチによる)というのが「異端の」の意味であった。

英語教育を実用的な運用能力を育成するための訓練とみなし、文学や翻訳を排除する。「英語は英語で」という一般受けするスローガンの下、中身の薄い英文を英語で教える。グローバル化まで英語化という正反対の動きにすり替えてしまう。そうして巨大な市場を作り出す。英文学を専門領域とする著者からすれば、こうした現在の英語教育の姿の哀れさは見るに堪えないのであろう。しかし、気持ちを抑え、あくまでも冷静に現状への道筋を丁寧に辿っていく。力作と言える。

具体的論点を1つだけ見ておこう。
英語を国際言語として確立するために考案されたBEの普及が進まなかった原因の1つは英語話者教員の賛同が得られなかったことであると著者は考える。「標準英語」の規範から逸脱しているからというのがその理由だ。しかし、世界諸英語の観点から、BEを英語の一変種と捉えれば、それはむしろ標準英語からの解放を意味すると著者は言う。加えて、平明な語彙に置き換える認知的過程で思考が明晰になるというメタ認知的ご利益の指摘もある。興味深い。

ただ、語彙と構造を制限してなお、同等の表現力を保持するためにはさまざまな工夫が必要であり、その工夫のためには特別の認知的エネルギーが学習者に求められる。評者はBEが普及しなかった大きな理由がここにあると考える。BEの再評価にあたっては、メタ認知的ご利益とこの認知的エネルギーを天秤にかけながら、語彙と構造を具体的にどう制限したところに最適解があるのかを検討する作業が新たに必要となる。

「あとがき」にあるように、本書はもともと紀要に連載として掲載された論考を一冊にまとめたものであり、章によって、「本流」英語教育史との関連の検討に粗密がある。また、通史として見たときにはトピック間の繋がりが十分とは言えない。本書はつぎに企画されるであろう、異端の英語教育史本論へ向けた序論と位置づけるのがよいと思う。

この記事の中でご紹介した本
異端の英語教育史/開文社出版
異端の英語教育史
著 者:加藤 洋介
出版社:開文社出版
以下のオンライン書店でご購入できます
2016年6月24日 新聞掲載(第3145号)
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