【横尾 忠則】絵が絵から離れる瞬間迷宮入ドーピングアート|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」

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日常の向こう側ぼくの向こう側 第274回
2017年1月20日

絵が絵から離れる瞬間迷宮入ドーピングアート

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2017.1.9
 何の日か知らんけど今日はエッ、祭日。鬱陶しい雨曇。祭日は晴れてこそ祭日。祭は気分が晴々するというじゃないか。

昼食はいつも外食。作品のレパートリーは広いけど外食のレパートリーは狭い。

それはそーと、ここ一年ばかり土屋さんに会ってないゾ。土屋さんというのは俳優の土屋嘉男さんのこと。あんなに毎日公園に来てたのに。電話は通じないし、何十年も来ていた年賀状も今年はない。歳(90歳)が歳だから心配よね。入院でもしてんじゃないかな?
椹木野衣さんと(撮影・尾田信介)
2017.1.10
 郵便局員になって年賀状を自転車で郷里の家々に配達している夢を見る。十代の昼間の夢が六〇年後の夜の夢で実現する。逆に夜の夢が昼間に実現するってことが増えてきた。ポーの言葉が現実味を帯びてきたぞ。

椹木野衣さんが「東京人」でパロディについてのインタビューに。デュシャンとウォーホルの作品にパロディの源流が見え隠れしないでもない。椹木さんとの対話は刺激的で話題が尽きない。パロディを入口に、もっと美術の森の深奥に分け入ることが可能なのでは?

やっと土屋さんの奥さんとコンタクトが取れた。やっぱり入院だった。でも病気じゃなくケガで。階段から落っこちたそーで二年連続だよ。ぼくも二年連続骨折だったけど、早くよくなってそんな話でもしましょうよ。
神津善行さんと羽村市の文化講座会場で(撮影・徳永明美)

2017.1.11
 羽村市生涯学習センターでの「神津善行と文化講座と音楽会」に招かれて神津さんとトーク。メインはロシアから来日のショパン・ピアノコンクールで入賞した若いピアニストの演奏会。難聴は音楽会向きじゃないけど。お陰でよく眠れました。

2017.1.12
 人生はなるようになるという運命まかせで生きてきたけれど絵だけはなるようにならないんだよな。だけどなるようにならないということが、そもそもなるようになっていると考えれば悩みはない。

イヤー、本当に絵は箸にも棒にも引っかからない実に厄介な生き物だ。先ず絵を完成の方向に持っていくとしよう。だけど考えてみれば完成はあり得ないのだ。そのプロセスで常に破綻に向かう。この辺りから操縦不能に落ちる。そして絵が絵でなくなっていく。絵が絵である間はまだ絵から離れていない。意図して離れようとしても離れられない。フト気がつくと不思議なゾーンに入ってしまっている。実はこの瞬間こそ絵が自然に絵から離れた瞬間なのである。自由自在になるというのはこーいうことなんだ。自分も絵も自らを見失う限界までいかなきゃ絵はイキ生きしてこない。創る意識さえ消滅して初めて真の迷宮に足を踏み入れることができるってワケ。これがドーピングアートなのである。

のど飴には器官を拡張する成分として生姜が入っている。だけどこの成分がアスリートにはドーピング効果があるという。ぼくは喘息持ちだから生姜は必需品だ。画家もアスリートに近いけれど、現在のところドーピングには引っかからないでドーピングアートを公けに描いている。

2017.1.13
 荒川修作さんに初めて会う。彼を紹介した人の名は知らないけれど、美術家のナントカさんだ。そのナントカさんと三人で昔の銀座の裏通りを歩いて、どこかの劇場に入る。荒川さんとは大した話はしないけれど彼は機嫌がいいのか始終ニコニコしている。夢にしては非現実性に欠落している。ポーの言う現実が夢で夢が現実なら、まあそんな夢だ。覚醒してから、オヤ? 変だぞと思ったら荒川修作という人には現実に会ってないし、現実に生きてない人だということを知った。ぼくにとって夢は死者と交流の場だ。向こうからすればよく死者の国にやってくる奴ぐらいに思われているはずだ。

冬場は喘息が悩みだ。成城漢方医で(1)と(29)の漢方薬を出してもらう。この二つは相性がいいので同時に服用してOK。(1)は風邪気味の時、(29)は喘息発作時に飲んでいたが、朝晩二回飲んでもOKとか。喘息といえば大抵吸入器勧められて咽にシューシューするのだが、発声が苦痛になるので嫌だ。

『言葉を離れる』(青土社)の増刷が決定。

2017.1.14
 『吾輩は猫である』をちゃんと読み始める。第一章では人間の方が我ままだ。猫族は人間のように言葉を持たないだけに人間の心を読む、ここは当たっている。

『シャーロック・ホームズ大図鑑』(三省堂)を買う。挿絵のファンだったが、まだホームズの世界は把握し切れてない。

2017.1.15
 瀬戸内さんと今年初めて電話で話すがお互いに難聴がひどく一方通行の会話になる。

京都は大雪。猛吹雪の中の女子駅伝は最高だった。時にはテレビ画面が真白になり、まるで亡霊の群が走っているようで寒い怖さがあった。
2017年1月20日 新聞掲載(第3173号)
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