ふたりだと職務質問されないね危険なつがいかもしれないのに 雪舟えま『たんぽるぽる』(2011)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」

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現代短歌むしめがね
2017年1月27日

ふたりだと職務質問されないね危険なつがいかもしれないのに 雪舟えま『たんぽるぽる』(2011)

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職務質問というのは私は今まで一度もされたことがないのだが、ひとりで歩いているときの方がされやすいものなのだろうか。恋人同士がふたりで歩いていると「安全な存在」とみなされるのだろうか。この歌のふたりは、自分たちをスルーする警官を一瞥しながら、本当は私たちは世界の転覆でも企んでいる悪党かもしれないのね、と秘かにほくそ笑んでいるのだ。もちろん実際は警官の洞察通り、ごく普通の無害なカップルなのだろうが。

危険なカップルといえば映画『俺たちに明日はない』のモデルとして知られるボニー・アンド・クライドがまず思い浮かぶけれど、この歌ではそういう具体的な理想像は出さない。「危険なつがい」というざっくりとした雑な表現がむしろ見事にハマっている。たとえば「銀行強盗かもしれないのに」だったら、いっきに歌が台無しになる。犯罪を重ねながら逃避行するような取扱い注意のふたりに憧れていながら、根が善良なので具体的にどういう犯罪をしようというアイデアは持てないのである。その平凡さが、世界を敵に回してでも愛し合いたいという非日常への憧れを捨てられないロマンティシズムを浮き立たせる。「つがい」にしたって、一般的には動物のカップルに対して使う言葉だろう。野獣的、動物的な本能に従った愛を求める気持ちが、こういう言葉を選ばせている。

特別な存在になりたいがための、野蛮さへの憧れ。こういうロマンティシズムも、絶対に必要なのだ。
2017年1月27日 新聞掲載(第3174号)
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