シリーズ「文系学部解体―大学の未来」第3回① なぜ誰も声を上げないのか/なぜ伝わらないのか?――福岡教育大学問題から考える|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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文系学部解体-大学の未来 第1回
2017年1月13日

シリーズ「文系学部解体―大学の未来」第3回①
なぜ誰も声を上げないのか/なぜ伝わらないのか?――福岡教育大学問題から考える

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室井
 昨年七月、九州の福岡教育大学で、ちょっとした事件が起こりました。ある先生が、授業中に、SEALDsのデモ映像を見せながら、「みんなで一緒に、これやってみようか」と言って、実際に「安倍はやめろ」のコールを、学生たちにやらせた。その授業を受けていた学生のひとりが、このことを写真付きで投稿サイトにつぶやいたわけです。それがあっという間に拡散し、「大学の授業で『安倍はやめろ』と言わせている、とんでもない奴がいるらしい。しかも教員を育てる教育大学で、そんなことやっていいのか」といった感じのツイートがわっと広がって、いわゆる炎上が起こった。「こういうことに対して、大学は一体どういう見解を持っているのか」。そんな抗議の問い合わせも来るようになり、執行部が慌てて対応を練って、なんとその先生は停職三ヶ月の処分を受けた。今日来ていただいているハヤシザキカズヒコさんが、まさしく事件の当事者です。こうした事件は、うちの大学でも実際にあり得ることです。僕自身の身にも、いつ降りかかってくるかもしれない。たとえば天皇や在日の問題について、あるいは尖閣諸島について、授業の中で話すことはよくあります。それを学生たちがツイートしたりすれば、もしかしたら同じ炎上騒ぎが起こったかもしれない。そういう問題が生じた際に、大学人として一体どのように考えたらいいのか。これは結構重要な問題なので、そのことを今日は考えてみたいと思います。

今日議論したいテーマは、もうひとつあります。福岡教育大学で起きた炎上事件のニュースを見た、うちの大学の学生が『人間のために』という自主制作映画を撮りました。これが今年のぴあフィルムフェスティバルに入選し上映され、ネットでも配信されています。映画の中には、ハヤシザキさんを髣髴させる先生が出て来ます。映画を監督した三浦翔君は、人間文化課程を今年卒業したんですが、自分が所属する学科が廃止になることを知り、映画を作ろうと思ったわけです。三浦君と一緒に映画を作った学生たちは、今年の一月に、六十人を集めて、横浜のみなとみらいで、「文系学部縮小に抗議する行進」をやりました。そういう行動を通してわかってきたことがあります。全国の文系学部で、同じように声を上げはじめた学生たちがいるということです。佐賀大学や新潟大学といった地方大学にも、横国の人間文化課程と同じように、文科省から一方的な廃止が告げられて、潰されてしまう学科があります。そこで学ぶ学生や、一部の教員たちが、いろんな声を上げている。そうした声が、フェイスブックやツイッターで伝わっては来ているんですが、なかなか一般には広がっていかない、伝わらないというのが現状です。

これが今日のテーマである「なぜ誰も声を上げないのか/なぜ伝わらないのか?」に繋がって来る話です。声を上げても、どうせ変わらない、何も伝わらない、みんな関心を持ってくれない。こうした状況を前にして、本当にこれでいいのか。大学って、みんなが黙り込むだけの場所なのか。ただサークル活動をやって、四年生になったら就活をやり、卒業したらおしまい。自分が学んだ学科・課程がなくなってもしょうがない。そういうものなんだということでいいのか。それとも、大学という場所をもうちょっと違う、楽しい空間、意義ある場所に戻すことができるのかどうか。このことについて考えてみたいと思います。

ここからはまず、ゲストのハヤシザキさんにお話しいただきますが、少しだけ状況を説明しておきます。昨年四月、安倍内閣によって、学校教育法と国立大学法人法が改正されました。その改正の趣旨は、学長のガバナンスを強化する方向に大学の組織を変えるということです。学長が会社の社長のように、すべてのことについて責任を取り、決定権を持つ。教授会の役割を縮小し、学部長や大学院の研究科長の選挙を廃止し、学長がすべてを任命する。そうした法律改正の結果、全国の国立大学は現在、学則改正を行なっているところです。僕らの大学でもやっています。例にもれず、学部長選挙はなくなります。ただ、うちの今の学長はとてもいい人なので、実質的にはこれまでと同じく、学部の構成員の意向投票を尊重する形にしようとしています。でも選挙はできなくなります。実は福岡教育大学は、法律改正に先立って、学長のガバナンスを強化した大学なんですね。その結果、どういうことが起こったのか。ハヤシザキさんから話をしてもらいます。
ハヤシザキ
 皆さん、僕のことをよく知らないと思うので、まず自己紹介を簡単にしたいと思います。僕は、人権教育・多文化教育・教育社会学を専門にしています。部落出身者や日系ブラジル人といった、エスニックマイノリティと呼ばれている人たちの教育問題を研究しています。
ハヤシザキカズヒコ氏
(横浜都市文化ラボHPより)
部落出身者というのは、被差別部落出身の人々のことで、同和地区出身者と言われることもあります。福岡は被差別部落が六百ぐらいあって、日本で一番多いんですね。そういうこともあって、人権教育や同和教育が盛んな地域です。だから教員養成の大学に、僕のような研究者のポストがあるわけです。もうひとつ。部落出身者や外国人の子どもが通う学校で、どういう学校作りをしたらいいか、弱者をうみださない学校づくりについても研究しています。また本業とは別に、「安保関連法案に反対する学者の会」に賛同し、福岡教育大学関係者の有志の会の呼びかけ人もやっています。「市民連合ふくおか」という野党に共闘を求める団体があって、かかわりをもっています。

福岡教育大学についても説明しておきます。教員数一七七人、学部生数約二七〇〇人、大学院生数約二〇〇人の小さな大学です。小倉と博多のあいだの、人口十万人ぐらいの都市にある、山と田んぼに囲まれた単科大学です。

先程、室井さんからご説明がありましたが、文科省は今、文系学部解体というよりは、とりあえず大学全体に対する予算をどんどん下げているわけですね。うちの大学も運営費交付金は、元々四十億円ぐらいあったのが、二八年度は大体三一億円にまで削られました。大体四分の三ぐらいに減らされている状況です。そうなると、当然のことながら、非常に苦しい経営をさせられる。因みに、この運営費交付金削減の話を別にしても、福岡教育大学は、元々貧乏な大学なんです。たとえば給料の平均額で言えば、全国国立大学八六校のうち多分一番下なんじゃないかと思います。

本題に入ります。わたしは、二〇一五年七月、授業中に、デモの参加を学生にうながし、さらに「安倍はやめろ」「寺尾もやめろ」と復唱させたとして、停職三ヶ月(二〇一五年十一月~二月)になりました。これが「ツイッター炎上事件」の概略です。寺尾というのは、元学長の名前です。皆さん、SEALDsの「戦争法案反対」のコールって聞いたことありますか? 乗りのいい感じのコールで、それを授業中に「みんなで練習しようか」と、僕が言ったんですね。別にやりたくない人はやらなくてもいいし、やりたい人だけがやればいい。そのぐらいの感じで、大体四割ぐらいの学生が、僕のコールについて来るような状況でした。まあ、ほとんどの人は「寺尾はやめろ」というところで、爆笑する。学生も寺尾が大嫌いだからです(笑)。ただ、その中に、ひとりだけ笑っていない学生がいたんですね。彼が授業の状況を写真入りでツイートして、結果的に炎上事件にまでなってしまった。この学生は、後で僕のところに謝りに来て、ふたりで協力してアップされた写真を消していたんです。でも、これだけならば、まだよかった。僕の名前が出ているわけではないし、大学名もわからない。問題は、そこにまた別の学生が、僕の名前入りでツイートしてしまった。それで一躍時の人になりました(笑)。なおかつ、愛国ツイッターというネトウヨの人びとが大学の電話番号まで入れてツイートしていまして、抗議の電話が六十件くらいかかってきたわけです。そんな抗議は、大学として無視すればいいと思うんですよ。「教員が何を言おうと個人の自由です」と、毅然と対応してくれればよかった。でもうちの大学の執行部は、ちょっとビビったんですね。それですぐさま「ハヤシザキを処分する」と発表してしまった。大学が正式に発表したから、やっぱり本当だったのかということで、さらにとめどなくリツイートされて収拾がつかなくなったわけです。結局は停職三ヶ月の処分が下されたんですが、僕自身は「停職」なんていうのは格好が悪いので、学生の前では「懲役三ヶ月」と言っています。給料にして百万ちょっとぐらい貰えませんでした。もちろん裁判闘争の準備をしていて、勝てばお金は支払われるでしょう。

大学で何を喋ろうが自由だと、僕は思っています。大学という場所においては、自由が一番大事なものだと思います。去年炎上事件が起きた時も、「それぞれの先生の考えがあっていい」と、大学には言って欲しかった。でも、そうはならなかったのはなぜか。理由を考えていくと、現在の大学をめぐる問題に深く関わって来ることだとわかります。そのことを話していきたいと思います。

「福岡教育大学問題」と言っても、問題があり過ぎて、短い時間ですべてを話すことはできませんので、ポイントを大きく五点にまとめてみました。「非民主化=独裁化」「右傾化」「多忙化」「プア化」「私物化」という五点です。総じて何が問題かと言うと、教育が崩壊しているということです。教育崩壊どころか、教育破壊とでも言えばいいのか、これでも大学なのかという状況になっている。皆さんも、他人事じゃないんですよ。今はまだ大丈夫かもかもしれないけれど、いつ福教大と同じ状況に陥るかわからない。
〈次号につづく〉 
2017年1月13日 新聞掲載(第3172号)
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