集中連載4= 吉見俊哉・室井尚『文系学部解体』VS『「文系学部廃止」の衝撃』|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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文系学部解体-大学の未来 第4回
2016年10月7日

集中連載4= 吉見俊哉・室井尚『文系学部解体』VS『「文系学部廃止」の衝撃』

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役に立たないが 価値がある

吉見
文系理系の学問をめぐってなされている、今の議論を見ていて思うことがあります。なぜ人文社会系が社会の中でマージナライズされているのか。その問題を合わせて考える必要があると思うんですね。これは資本主義と密接に関係があって、資本主義の回転サイクルが速くなっているから、それに合わせて、結果も早く出せと言われる。そういうスパイラルに、我々自身が組み込まれてしまっているわけですね。
室井
結果を早く出す、それが一般に言われている「役に立つ」ということですよね。
吉見
「役に立つ」というスパンが短くなっているんですよ。だけどどんどん短くなれば、本当は長期的には役に立たない。三年、五年では役に立つかもしれないけれど、この先三十年、四十年、五十年経ったらどうなのか。長い時間の中で、価値観は絶対に変わっていく。日本の企業を見ていると、そのことがよくわかる。シャープにしろ、ソニーにしろ、価値観の変化を先取りできなかった。それで、やがて力を失っていった。
室井
財務省の官僚にしてみれば、バランスの問題だと考えていると思うんですね。たとえば、さっきの話で言えば、バビロニアの遺跡を発掘するためには、膨大な予算が必要になる。そんなことよりも、すぐに結果が出る領域に予算を回した方がいい。必ずそういう話になるわけです。だから僕の場合、「役に立たないけれど、価値がある」という言い方をしているんですよ。人生の中には、役に立たないものもたくさんある。だからと言って、すべてが無意味ではない。そこに価値はあると思うんですね。もうひとつ、僕が自分の本で書いたのは、人文学は「文脈的な知」であるということです。何か失敗があった時に、そこでも役に立つことが言えるかもしれない。そういう意味で、人文学は存在している。西部邁さんが昔、「知識人の役割は、村はずれに住む狂人のようなものである」ということを言っていましたよね。世の中がうまく回っている時は、みんな見向きもしないけれども、本当に困った時に、村はずれにいって相談する。そうすると、ちょっと意外な知恵を出してくれる。人文学は、それに近いイメージだと思うんです。
吉見
私自身は、やはり三年、五年で結果を出せという、それが役に立つことなんだという価値観自体、間違っているということ、もっと長いスパンで物事を考える社会にしなければならないということ、三十年、五十年、百年という時間軸で考えれば、役に立つことがあるということを、強く言っていく必要があると思っています。 

<次週に続く>
2016年10月7日 新聞掲載(第3159号)
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