集中連載10=吉見俊哉・室井尚『文系学部解体』VS『「文系学部廃止」の衝撃』 ―大学の価値を考える|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」

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文系学部解体-大学の未来 第10回
2016年11月18日

集中連載10=吉見俊哉・室井尚『文系学部解体』VS『「文系学部廃止」の衝撃』 ―大学の価値を考える

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(前号のつづき)
室井
そうはしたくないけれど、そうせざるを得ないと?
吉見
そうです。それが、ベストかどうかはわかりません。しかし、これだけ学部と大学院がぐしゃぐしゃになっている状況では、その構造を整理するために、学部は教養教育、リベラルアーツ教育を重視する方向に変えた方がいい。カレッジとしての位置づけを明確にし、期間を三年にしてもいい。その後の大学院はグラジュエートスクールにして、アメリカ式に二層構造に分けた方がすっきりする、問題点がだいぶ整理されると思います。
室井
ただ僕は、アメリカ型に近づけることによって、本当に良くなるとも思えないんですよ。
吉見
他に解があるなら教えて欲しいですね。本当にそれが最善だとは私も言ってはいませんが、しかし今の日本の大学の混乱は、ドイツ型とアメリカ型、異なる制度が、どこかの温泉旅館のように建て増し建て増しで継ぎ足され、混在してきたことに原因がある。ですから、大学の再定義はやはり必要だと思います。
室井
しかも、文科省の方針では、職業専門大学まで作るという話ですよね。
吉見
だから余計に話がややこしい。もしも大学が専門学校化するのであれば、同時にアメリカ型のカレッジをきちんと確立するべきじゃないか。アメリカ型のカレッジ、リベラルアーツ教育の価値をもう一回きちんと見直すべきだと、私は思いますね。
室井
さっきも言ったけれど、僕もリベラルアーツをなんとか立て直したいと、個人的には強く思っています。ここからは、会場からの意見を聞いていきたいと思います。

――大学の価値を考える中で、役に立つか、役に立たないかを直接的に問わなくてもいい社会が一番望ましいと思っています。ただ、そうした話は、お金を握っている側には通じないのではないか。どれだけ大学にお金を落とすべきか。投下した資金が有効に使われるとは限らない。その時に、大学の側も、どこにどれだけお金を費やすべきかという観点で答えを考えていく必要があるのではないでしょうか。
吉見
室井さんからすると、私のことが、大学の管理者に見えるかもしれない。ただ、私にとってアドミニ(ストレーション)への関与は社会学的な参与観察をしているような面がある。もちろん、私は文科省や財務省の人間でもない。しかし私は、大学は構造改革・組織改革をなすべきだと思っています。今のままでいいとは思っていません。そうした人間が、文科省や財務省や国家と、どうやって対等に渡り合っていくことができるか。彼らと渡り合いながら、ある価値を持つ大学の仕組みを作っていく。そうした取り組みが必要です。資金配分となると、視点がさらに上位になりますね。国の予算をどう配分するべきかという視点になりますが、私の視点は、それとは違います。文系学部・人文社会系は役に立つと言いつづける。そのことによって内部も変えていく。資金配分についても、今の配分がいいとは思いません。それを変えていく方向に国にも産業界にも働きかけ続けることが必要だと、私も思っています。
室井
どういう視点からものを見るかによって違うわけですよね。年間予算が決まっている中で、教育や大学にどれだけのお金をかけるべきかを決める立場の人はいる。財務省がそうです。大学には、そこで決まった予算が上から降って来る。運営費交付金はこれだけですとか、言う通りにしないと減額しますよという形で、通達されるわけです。その中で、我々はベストのことを考える。たとえば人件費を削減しなければならないことだってある。結局、お金がないことが前提としてあり、だから国立大学は無駄遣いはやめろという話なんですが、それならば、いっそのこと旧制の帝国大学に戻して、地方の新制大学なんて全部潰して職業学校にすればいいと思いますよ。文学部なんて全部私学にやらせればいい。もちろん私学だって大変なんです。受験生が減っているし、定員数を減らしたら授業料収入がなくなりますからね。文科省は一方で、私学が潰れないように考えているわけです。だけど、我々の立場で、そのようなことについて、どうすべきだと言ったってしょうがない。教員は、場合によっては大学の組織運営に関わらないといけない。これだけのお金で何とかしろと言われれば、その範囲でしなければいけない。寄付金を集めろとか、企業にお金を貰えとか言われれば、そうしなきゃいけない。立場によって、考えるべきことは違うのであって、結局どこかを削らなければいけなくなった時に、どこを削るかを決めるのは我々ではない。我々は削られないように頑張って、ベストなことをしているんだけれど、僕が怒っているのは、うちなんて優良な学科で、受験生が少ないわけでもないのに、潰されてしまうということなんですよ。市場原理とか競争しろとか散々言ってきたんだから、その意味では、潰される理由がないんですね。
<次週に続く>
2016年11月18日 新聞掲載(第3165号)
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