集中連載13=吉見俊哉・室井尚『文系学部解体』VS『「文系学部廃止」の衝撃』 普遍的な価値に奉仕する|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」

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文系学部解体-大学の未来
2016年12月9日

集中連載13=吉見俊哉・室井尚『文系学部解体』VS『「文系学部廃止」の衝撃』
普遍的な価値に奉仕する

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(前号のつづき)
吉見
すごく悲観的になっていますね(笑)。室井さんは自分で、役に立たないと言って卑下しているけれど、私からすれば、室井さんのやっていることは役に立っていると思いますよ。

――文系対理系という対立軸が、そもそもおかしいと、私は思っています。理系も役に立たないんじゃないかと、個人的には考えるからです。たとえば工学系の研究室でも、実際に就職する時に、ライセンスとしては使えるけれども、ほとんどの人は会社に入って、大学の研究と同じ分野のことはやっていない。特にカレッジのレベルであれば、理系も文系も、間接的にしか役に立たないと思います。それなのに、理系は役に立つと考えていることに危うさを感じるんですね。言っていることと実態のあいだには、乖離があるのではないでしょうか。
吉見
だからこそ、室井さんと私とで二通りの選択をしている。室井さんのように、「役に立つ」なんていうことは関係ないんだという戦略もあると思います。私はそういう選択をしていない。世の中で考えられている「役に立つ」という概念が狭すぎであり、その概念を変えなくてはいけないという立場を、私は取っている。戦略としてはうまくいかないかもしれませんが、うまくいけば波及力があると思います。「何かに役に立つ」という考えそのものが、一部の理系にとっては予算取りのためのフィクションかもしれない。しかし、フィクションでもそう考える、その考えの元にある概念自体を変えていく。フィクションを拒絶するのではなく、フィクションを身にまとって、フィクションを変えていく方が演劇的かなと思いますね。
室井
今発言してくれたのは、僕らが立ち上げたマルチメディア文化課程の一期生で、その後情報学環の大学院にいった教え子です。彼がよく言うんですね。「先生たちは文理融合に失敗したかもしれませんが、僕たちはうまく文理融合していますよ」と。結局我々にとって大事なことは、自分が育てた学生が社会に出て活躍してくれることです。そうなれば自分たちがやって来た教育が無駄ではなかったと言える。
吉見
そう思います。日本の大学に欠けているのは、学生からの視点なんですよね。どうも教員の視点から大学を見がちになる。もっと学生の視点から大学を見なくてはいけない。
室井
毎年の就職率だけで統計を取って、その先、卒業生がどうなっていったのかを全然見ていない。そのことも問題だと思いますね。
吉見
学生がどういう道をたどっていったのか。そこで大学がどういう役割を果たしているのか。そこから世界を見なければいけないと、私も思います。

(おわり)
2016年12月9日 新聞掲載(第3168号)
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