塚本邦雄『綠色研究』(1965) 夕顔乾酪色にくさりて惨劇のわが家明くるなり*おはやう刑事!|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
読書人よ、集まれ!

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは

  1. 読書人トップ
  2. 連載
  3. 現代短歌むしめがね
  4. 塚本邦雄『綠色研究』(1965) 夕顔乾酪色にくさりて惨劇のわが家明くるなり*おはやう刑事!・・・
現代短歌むしめがね 第71回
2017年2月3日

夕顔乾酪色にくさりて惨劇のわが家明くるなり*おはやう刑事!
塚本邦雄『綠色研究』(1965)

このエントリーをはてなブックマークに追加
前衛短歌の巨頭・塚本邦雄の第五歌集からの一首。彼もまた、後に幻想ミステリの大家となる中井英夫が短歌雑誌編集者時代に見出した歌人のひとりである。

腐敗した夕顔と、「惨劇のわが家」のイメージが強烈に重ねられる。一家惨殺でも起きたのだろうか。しかも捜査にやって来た相手に「おはやう刑事!」とやたらと明るく話しかけている。絶対犯人はお前だろ。自分で事件を起こしておいて「惨劇のわが家」などと言ってしまうあたり、離人症的である。血なまぐさい歌であるが、「乾酪色」という色彩が提示されているため、血の赤というよりも重々しく濁った白のイメージが一首を支配している。

ノワール的な内容でありながら明るくポップな文体であるというのがこの歌のポイントである。作者はこの歌を通じて、己の人生を描こうとはしていない。精神科医だからこそ狂気を描こうとした斎藤茂吉とは全く異なる。ひたすら言語遊戯に耽りながら、おどろおどろしい世界を楽しもうとしているだけだ。その空虚さがむしろ魅力である。

塚本邦雄にこうしたポップな口語文体は珍しいが、『綠色研究』が刊行されてから25年後には、弟子の西田政史が「ようこそ!猫の星へ」という掲出歌を思い起こさせるタイトルの作品でデビューしている。西田は「ニューウェーブ短歌」の旗手のひとりとして注目され、ポップな口語短歌を発表した。掲出歌は間違いなく、現代の口語短歌の源流のひとつといえるだろう。
2017年2月3日 新聞掲載(第3175号)
このエントリーをはてなブックマークに追加
山田 航 氏の関連記事
現代短歌むしめがねのその他の記事
現代短歌むしめがねをもっと見る >
Notice: Undefined variable: category_check in /var/www/dokushojin.com/htdocs/article.html on line 1654