【横尾 忠則】眠れぬ夜の創作計画 描かない画家は死ぬぞ。|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」

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日常の向こう側ぼくの向こう側 第255回
2016年8月26日

眠れぬ夜の創作計画 描かない画家は死ぬぞ。

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河口湖の富士資料センターにて、糸井重里さんと
「網走番外地」と「唐獅子牡丹」(撮影・徳永明美)

2016.8.14
 ちょっと顔に自信があると思っている女性は道ですれ違うとほぼ100%顔をそむける。その反対の人はキョロリと見る。こんなことしかない日曜日。
2016.8.15
 盆と終戦日が同じ日、と言うとクリスチャンの娘は、今日は聖母被昇天祭だという。

この間から終日眠い日が続いている。不眠のせいか、季節のせいか、無気力のせいか、老齢のせいか、瀬戸内さん同じとか。まあ94歳の人とは同じにできないけれど、その年までまだ14年ある。あと14年なんてとっても考えられないが、北斎になった気分で言えば「あと10年あれば宇宙の真理が描けるのに……」。これは、北斎の90歳のセリフ。80歳のぼくはそのセリフを言える柄じゃないけど。

NYに帰ったヨーコさんが二人のツーショット写真(先週号参照)を送ってくれるが、そこには「人間はneed beauty and dignity!yokoo-san has in this photo」byYokoのメモあり。

イチローが外野手の故障により今シーズンレギュラー出場の可能性あり。実は密かにこーいうことを願っていたのよね。
2016.8.16
 眠れぬ夜を利用して今後の創作計画をネル。5年で基礎を固めて、10年で完成、なんて北斎じゃあるまいしね。

UOMOでポートレイトの撮影。人格を消すポートレイトもいいのでは、と帽子を深く被ってサングラスで顔を覆う。
2016.8.17
 朝からおでんが鳴きっぱなしでぼくから離れない。変? もしや体調が悪いのでは? 六神丸を一粒飲ます。子供の頃、体調が優れないとなんでも六神丸を飲まされていたので、これは今も家庭常備薬である。猫も家族の一員、効かないことはないはず。
2016.8.18
 三賢社の林さんとライターの中村さん、それに徳永、妻と5人で林さんの車で河口湖NHK富士資料センターに二泊三日の静養に。高速のサービスエリアで休憩を。下車と同時に急に辺りが霞んで半透明ピンボケ状態。店内でしばらく伏せていたが心配した妻が、「キューキューシャ、救急車!」と急に口走り始め、徳永があわてて119番。間もなく救急隊到着。「お名前は? 誕生日は? 今日は何日?」。「終戦日から3日ほど経っているので17~18日ぐらい」と答える。車椅子とタンカーを合体した乗物に乗せられて救急車に収容。「市立日野病院に向います」といって走り出した。救急車内もピンボケ、眼鏡を掛けるとピンが合う。ということは目が霞んでいるのはいつもの状態で特に病気ではないような気がしてきた。救急隊員が心配する目まいとか胸が苦しいとかはいっさいない。たまたま店内が霞んで見えたので、パニクっただけではないのか? まあ、これも体験。状況に従うしかない。救急治療室で、血圧、採血、点滴、ベッドに寝たまま廊下をあちこち走って、脳のCT、胸、腹のレントゲン。全て異常なし。しかし「ここまできてしまえば病人を装うしかない。2時間後やっと退院。「軽い脱水症状では?」との診断。急に空腹、全員でステーキハウスへ。

すでに編集者福田さん、3時間遅れて糸井重里さん親子とスタッフ到着。早速ピンポン開始。先生からは「安静に!」と言われたが、点滴パワーでドーピング状態。ピンポンで活力を出す。中村さん(遊々亭うどん)の寄席などがあって10時半まで談笑。糸井さんは合宿気分で来ているので夜は強い。「私、病気上りなので、お先きに」10時半就寝。
2016.8.19
 「8時朝食は早いねえ」と糸井さん不満気味。

さて、絵を描こう、原稿を書こうと勇んでやってきたが、久し振りの糸井さんとのピンポン社交。抜きん出て上手い者はいないので、勝ったり、負けたり。このセンターにカラオケルームがあるのを糸井さんが発見、一同そこに流れ込む。ぼくはカラオケと無縁の生活者なので、さすがこれには抵抗するが(その上難聴で聴こえない、歌えない)、処女体験の妻は何と波長が合ったのか歌ったこともない歌を、「昔、聴いたことがある」という理由だけで、糸井グループの女子群と乗りまくる。かって妻の歌など聴いたことがない。女性はわからん、魔物だと思う。

夜は糸井さんの知人の糸力カレーの店で、多彩な料理のご馳走になる。昨夜に続いて中村さんの落語を一席聴いて寝る。
2016.8.20
 確かに8時の朝食は早い。寝坊して10時にロビーへ。食前、食後のピンポンをして昼前に東京へ。中村さんの案内で北見のレーガンが来たというそば屋へ。

帰宅すると長女の美美がおでんの面倒を見に来ていた。4時前なのでアトリエへ。今週の日記の整理。夜は出前のうな重を。
2016.8.21
 早朝、おでん、ぼくの布団の上で放尿。留守のストレスが爆発? 昨夜の猫撫で声が怪しいと思った。

絵を描かないとこんなに疲れるものか。描いて疲れる以上に疲れる。画家の長寿の秘密は描きまくることだ。描かない画家は死ぬぞ。よーし、明日から描くぞ。(よこお・ただのり氏=美術家)
2016年8月26日 新聞掲載(第3154号)
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