菊が眼前に浮かんでくるような 高橋裕子「野柑菊を描く」 力作揃い、今後が楽しみな創刊号 日本大学藝術学部文芸学科多岐祐介ゼミ「黒曜」|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
読書人よ、集まれ!

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは

文芸同人誌評
2017年2月3日

菊が眼前に浮かんでくるような 高橋裕子「野柑菊を描く」
力作揃い、今後が楽しみな創刊号 日本大学藝術学部文芸学科多岐祐介ゼミ「黒曜」

このエントリーをはてなブックマークに追加
野川でカワセミが水浴び をしている新春の朝 軽舟


正月一日には愛犬のしょうたと一緒に近くの神明神社にお参りした。お賽銭をあげ、今年一年、一家の無事息災を祈った。

昨日の午後、馴染みの書店に行くと『ガモフ全集1 不思議の国のトムキンス』(白揚社)の新版と、吉本隆明の「未収録講演集」二冊(筑摩書房)が陳列されていた。

ガモフの『不思議の国のトムキンス』は私たちをとりまく世界を科学的に解説したアインシュタインの相対性理論を分かりやすく解説した本だ。

実は吉本隆明の『初期ノート』(試行出版部)の中にも「相対性原理」の一節がある。最近、『初期ノート』を手にすることがあり、たまたま開いたページが「相対性原理」の解説だった。

今年度のノーベル文学賞を受賞したホブ・ディランの名曲「フォー・エバー・ヤング」の絵本「はじまりの日 F0REVER YOUNG」の短い詩にあやかって、今月も詩作品の紹介から。

今回の受賞によって「一ミュージシャンの表現が「文学」の定義を広げた」(朝日新聞)ことにより、日本でも文学の幅が広くなった気がする。米国ではディラン創作の源流である手書き歌詞やノートの公開準備が進められているそうだ。また言葉の源をたどる研究もさかんという。

野紺菊を描く 高橋裕子

鉛筆で下書きをしてから
色鉛筆で色をつける
葉は黄色と緑と青で
花びらは水色の上にピンクを塗り重ねる
花瓶にさした野紺菊のひとむら
背景はパステルで仕上げる
花が一番きれいに見えるように と
先生が言う
私は黒い色を選ぶ
すると
黒のパステルを手に
先生は花の向こうを塗りつぶし始めた
(「日本未来派 詩と評論」二三〇号)

ゆっくり鑑賞すると描かれた菊が眼前に浮かんでくるようだ。

単行本では及川良子著『したたる瞬間を』。東北大震災を経験したあとでは、今の時は「したたる」ように感じられるであろう。「あとがき」のなかでこう書いている。

「一九九五年
身の内に湧きあがった苦しい問いを発端としての書く行為への旅立ち。(中略)書いても書いても不作である。けれども言葉に救われて決壊せずに生きてこられた。文字や言葉には少なからぬ恩を感じている」

今月も創刊号がある。日本大学藝術学部文芸学科多岐祐介ゼミ発行の文芸同人誌「黒曜」だ。小説で
島崎葵「ファジー」、仲野真由「枝豆と猫」、井村佳歩「チョコレートを手に入れたら」、小山田美涼「剣の街」
など力作揃いだ。今後の発展を期待したい。欲をいえば、全体に書きたいものをもっと早く書いて欲しいと要望しておきたい。

若杉妙「私の岩下俊作像」
(「海峡派」一三八号)は夫が「これ面白そうだから買ってきたよ」と差し出した冊子「火野葦平とゆかりの人びと」から話が始まる。

その他、
岡田朝雄「忘れえぬ人びと7 北杜夫さん」
(「未定」二十一号)、
黒羽由紀子「詩 すみれたんぽぽこき混ぜて」
(「同時代」四十一号)、
惣うえもん「お守り袋」
(「詩と真実」八一一号)、
増永香菜子「永遠にサナギ」
(「文芸」十六号)、
中村ちづ子「幸せの逃げ口」
(「北斗」一・二月合併号)にひかれた。
2017年2月3日 新聞掲載(第3175号)
このエントリーをはてなブックマークに追加
文芸同人誌評のその他の記事
文芸同人誌評をもっと見る >