Forget-me-not⑥|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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Forget-me-not 第6回
2017年2月10日

Forget-me-not⑥

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活動家の家で秘密に催された誕生日パーティーで踊るゲイの男達。会は朝まで続いた。ⒸKeiji fujimoto

太陽がナイロビのビル群に沈み、人々は夜の闇に飲み込まれる。暗がりに紛れて、一人、二人、そして数人の男達が連れ立ってダウンタウンの薄汚れた建物の中に消えていく。ケニア人ゲイ活動家の『誕生日会』へ向かう男たちに紛れ、僕は秘密のパーティーに潜りこんだ。

二、三十人はいるだろうか。彼らも、肌の色が違う異端者である僕の存在には気がついているようだ。だが自分たちのことで頭がいっぱいなので、時々こちらを見るだけで、僕がここで何をしているのか訊ねてくるものはいない。

突然ディスコライトがまわり、キクユ族の伝統音楽が流れ始める。男たちは日常生活で抑圧された気持ちを解放すべく、何かに取り憑かれたかのように踊り狂う。声は音にかき消され、横っ腹に手が当たっても、足を踏まれても、文句を言うことさえできない。

踊れない僕は音に任せて体を無茶苦茶に動かす。アルコールを含み汗ばんだ手足が、腰が、肩が、隙間のない密室の中で触れ合う。もはや僕は異端者ではなかった。それはほんの束の間、男たちが固定化された社会的規範や美醜の境を忘れて一つになる時なのだ。

夜はまだ始まったばかりだ。
2017年2月10日 新聞掲載(第3176号)
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