絶対平面都市 / 森山 大道(月曜社)奇妙なダイアローグ  優れた森山大道論であり写真論|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」

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読書人紙面掲載 書評
2017年2月10日

奇妙なダイアローグ 
優れた森山大道論であり写真論

絶対平面都市
出版社:月曜社
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絶対平面都市(森山 大道、鈴木 一誌)月曜社
絶対平面都市
森山 大道、鈴木 一誌
月曜社
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本書は写真家の森山大道とデザイナーの鈴木一誌によるダイアローグである。二〇〇五年から二〇一六年までの間に収録されたものだが、読み終えたあとに森山の分厚い写真集を見終えたような気分になった。それは合間に挿入された図版のためというわけではなく、森山と鈴木がスナップショットのように言葉を次々と交わし、それらの言葉を時間をかけて発酵させ一冊に束ねていくという本書のプロセスが、森山が写真集を作るのと同じ手法だからかもしれない。あるいは、二人の間で交わされていた言葉がイメージを強く換気したからだろうか。いずれにせよ良質な写真集を一頁一頁ゆっくりと見終えたような読後感があった。

森山は自分の写真や身辺についての文章を書く機会の多い写真家だ。その意味では「私小説家」に例えられるような日本的な写真家の系譜に連なっている。「カメラ大国」の日本でカメラ雑誌のような印刷媒体を中心に活動してきた「写真家」というのは、いわゆるアーティストとも職業カメラマンとも少し違うような日本独自の存在だと言えるだろう。そして、森山も荒木経惟と並んで代表的な「写真家」のひとりであり、本書の中でも印刷への強い志向性や私小説家との近親性が確認できる。

鈴木一誌というダイアローグの相手を迎えることで、いつものモノローグ的な森山節とはズレるところがあり、そのことが本書の魅力にもなっている。

もうひとつの特異な点は、二人のやりとりの中に過去に森山が書いた文章や発言が頻繁に挿入されることだろう。過去の自分との唐突な出会いに森山がたじろぎながらもそれに応えようと言葉を探り出すような場面が頻繁にあるため、森山と鈴木のほかに、もう〇・五人ほどが加わっているようないささか奇妙な形のダイアローグとなっている。

本書では鈴木の言葉に誘われるようにして制作時における衝動や焦燥感が惜しげもなく語られ、そこに過去の森山の言葉がジグソーパズルのようにバラバラと組み上げられていく。そして、そのピースの中には東松照明、中平卓馬、荒木といった森山と長い付き合いのある写真家の名前も含まれており、彼らとの差異によってこの写真家の体質が浮かび上がってもくる。

あとがきの中で森山は鈴木による「長期にわたる、しぶとくしたたかなリードなしには」この本はありえなかったと書いているが、森山もまたしたたかな写真家にちがいない。鈴木の巧みなリードと膨大な引用によって丸裸にされつつも、自身でも巧みに森山大道論を展開している。

本書を読み終えたところで、以前森山の弟子に当たる写真家から聞かされた「写真家の言葉を信用するな」という言葉を思い出したのだが、そのとき彼の念頭にあったのは、師匠である森山のことだったかもしれない。私小説家としての写真家というのは、自らについての物語を巧みに作り出すということなのだろうが、それを差し引いたとしても本書が森山と鈴木二人による優れた森山大道論であり、写真論であることは疑い得ない。
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2017年2月10日 新聞掲載(第3176号)
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