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漢字点心
2017年2月17日

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詩人・小説家として知られる佐藤春夫は、中国文学の翻訳の仕事もしているように、漢字に関する造詣が深い。その作品にも、いろいろと難しい漢字が登場するが、時に、ちょっとおもしろい当て字を使って見せることがある。

たとえば、名作『田園の憂鬱』には、主人公が妻に隠していたことを、「つい浮っかり話してしまった」とある。どんな国語辞典や漢和辞典を調べても、こんな「浮」の使い方は、まず載っていないことだろう。

ただ、「浮」には、「安定していない」という意味がある。訓読みならば「浮き世」や「浮気」「浮つく」などがその例。音読みでも、「軽佻浮薄(けいちょうふはく)」のような例がある。一方、「うっかり」とは「注意力が安定していない」ということ。だとすれば、「浮っかり」と書くのも、まんざら根拠がないわけではない。

いい加減なようで、実は漢字の持つ意味合いをよく生かした、高度な当て字なのである。(えんまんじ・じろう氏=編集者・ライター)
2017年2月17日 新聞掲載(第3177号)
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