【横尾 忠則】考えて考え抜いてパッと手離し無心で筆を取る、考えたことも忘れ肯定したと同時に否定 排中律こそ私ファースト!|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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日常の向こう側ぼくの内側
2017年2月17日

考えて考え抜いてパッと手離し無心で筆を取る、考えたことも忘れ肯定したと同時に否定 排中律こそ私ファースト!

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2017.2.6
 夢か現か半覚醒の朦朧境で問いも答えもない禅の考案と戯れているようなモヤーっとした朝を迎える。夢の中に創作を持ち込むことは無駄ではなく、無意識層に発想を蓄積することである。それが昼間覚醒した時に作品となって発覚するのだ。

四月開催の町田市立国際版画美術館での個展に発表する新作版画を岡部版画工房で制作中。その校正が一点出来上るが、完成に近い仕上りにやや不満(自分に対して)、もっと解体してプロセスを見せなければいけません。プロセスとは私流にいえば中途半端ということ。中途半端はまだ自分になり切っていない状態で、自分らしくなることよりも他人らしくなることが必要。

続けざまに朝日の書評を二本書く。書かない時は二ヶ月も書かないが、ぼくにとって気紛れな人になることが書く(描く)ための核なんですよね。

東京新聞の瀬戸内さんのエッセイに井上光晴、荒野親子の肖像を描く。お仕事的な絵はとにかくサッと早く仕上げるのがコツ。

2017.2.7
 昨夜の不眠(気紛れにやってくる)と対決したのがまずかった。今日はこのどんよりした重力と向き合いましょう。

長男のインフルエンザ治癒するが、昨日から妻の様子が怪しいので無理矢理隣家の水野クリニックへ。こーいう時は理性より感覚が正解。お互いに家庭内離反で感染予防。おでんまで怪しくなってヒトの躰の上でゲロンパ! 汚物は床まで飛び散って、主婦に代ってウワー、忙しい。

日本道観の早島妙瑞道長が死去(登仙)。40年前に導引術を指導していただき、今も気紛れに実践中。身体の修業(躰の悟り)により洗心修業に至る術。この歳になると縁ある人が次々先き立つ、これも摂理。
日産厚生会玉川病院名誉院長、中嶋昭先生と(撮影・徳永明美)


2017.2.8
 2日続いた不眠も解消。

今なおインフルエンザ猛威衰えずと報道。試しに玉川病院へ。見事陰性でパス。

2017.2.9
 三本立の夢を見るが、夢の尾っぽだけが見えるが掴もうとするとスルッとネズミが穴の中に消えるように消えた。夢を見る愉しみは真の自分に出合うことだけれど荘子は「聖人に夢無し」と凡人を突き離す。ヤな感じ。夢見る者は邪念に捕われている者と言いたいん違う? その邪念が夢の創造者で、私は邪念でメシを食わして貰ってまんねん。夢小説『不思議の国のアリス』なども邪念の文学ってわけか。まあ文学も美術も邪念の産物でっしゃろ。

高倉健展が終って東京ステーションギャラリーの冨田館長、毎日新聞の立川さんがドラ焼を持って来訪。目下、博多で開催中。

2017.2.10
 なーんだか前立腺が怪しいので玉川病院の泌尿器科へ。こちらも陰性でパス。不安材料はストレスになるので片っ端から安心材料に好転させちゃう。中嶋院長がもっとエラクなられて、そのお祝いでもないと思うけど、きくかわのうなぎをご馳走になる。

ユニクロのデザイナー滝沢さん来訪。アトリエに並んでいる新作を「これぼくの絵!」なんて過去完了形で次々と唾をつける。「ダメ! NYでの発表作だから」。

2017.2.11
 なんだか宇宙的なビジョンの残像夢。今週は記述するに価する夢はなし。

制作時間よりも思考する時間の方が長い。考えて、考えて、考え抜いて、パッと手離して、無心状態になって筆を取る。そして考えたことさえも忘れる。あっちもあり、こっちもあり、と肯定したかと思うと同時に、ハイさいならと否定する。そんな排中律は自分の芸術(それも手離す)の底に沈んでいるものでんなあ。そんな見定められないものを相手にしてまんねん。排中律は私の新しい感性になると同時にエネルギーの源でこのエネルギーがヘラヘラした格を作りよるんですわ。だから「羅生門」の多襄丸じゃないが、多情人間になって、ありとあらゆるジャンル、ありとあらゆる主題と様式へと流れていく。この心地よさ! 「羅生門」の巫女の世界ですよ。

2017.2.12
 無意識もなく、邪念もない面白いはずのない荘子のような朝を迎える。西日本は記録的な大雪。蜜月の日米首脳会談の成り行きは? この間イラストレーターの原田治さん、今日マンガ家の谷口ジローさん、いくら狭いこの世やゆうてかて、なんで急いであの世に行きまんねん。

山田さんの映画談議。宇野重吉は演りたくない相手が三人いると言う。一人は子供、もう一人は犬、三人目は笠智衆。笠さんって本性のままの人? 風景の一部になってしまう山水画に描かれる太公望とか、矢のない弓で的を撃つとか、見えない筆で絵を描くとか。生きてて死んでる、死んでて生きている。幽霊のような存在はいいですね。やっぱりわけのわからない排中律こそ私ファースト。
2017年2月17日 新聞掲載(第3177号)
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