Forget-me-not⑧|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
読書人よ、集まれ!

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは

  1. 読書人トップ
  2. 連載
  3. Forget-me-not
  4. Forget-me-not⑧・・・
Forget-me-not
2017年2月24日

Forget-me-not⑧

このエントリーをはてなブックマークに追加
客の去ったベッドの上で物思いに耽る、男娼のフェリックス。 ⒸKeiji fujimoto

週に三日、丑三つ時をまわる頃、男はパブにやって来る。知人を見つけて酒をご馳走になる。飢えた目をした男たちを見つけてダンスを踊る。そして決まって泥酔した客と共に真夜中の闇に消えていく。男の名はフェリックス。ケニア西部の街、キスムで名の知られた男娼であった。

「気持ちが悪いのは男同士でやってるってこと。トイレでフェリックスが他の男と握り合ってるのをみたけれど、吐きそうだったよ」

ウェイターが顔をしかめる。混雑した週末のパブには種々様々な欲望が詰め込まれ…。フェリックスはその中で踊り続けていた。

高校を中退した10代、男娼としてもてはやされた20代前半、HIV感染により周囲から差別を受けた25歳の頃は過ぎ去り、フェリックスも去年30歳になった。この5年で父をなくし、ボーイフレンドに捨てられ、体重は10キロ増えた。そして我を捨てて仕事に向かうためのウイスキーは大切な友となった。

「セックスの時くらい、自分を忘れてしまいたいんだ」

そう呟きながら目の下にくっきり刻まれてきた皺に触れる。その横顔には、常人が見せまいとするそれを世間に吐き出し続けてきた人間の潔さ、そして儚さが刻み込まれていた。
(ふじもと・けいじ氏=写真家)
2017年2月24日 新聞掲載(第3178号)
このエントリーをはてなブックマークに追加
藤元 敬二 氏の関連記事
Forget-me-notのその他の記事
Forget-me-notをもっと見る >
文化・サブカル > ジェンダー関連記事
ジェンダーの関連記事をもっと見る >